異次元からの制御(2) 随筆のページへ

トップページへ

FileNo.040404

2月半ばの日曜日。外は冷たい雨が降っている。今年はじめから続いている肩の痛みが昨日から急に厳しい状況になっている。久英は、肩に負担がかからないようにリクライニングの椅子を少しだけ倒し、パソコンでDVDの映画を観ている。肩は少し動かすとキリキリ痛む。だが病院に行く気は毛頭ない。行ってもどうせ“痛み止め”をくれるくらいだろうと、ゆっくりかつ少しだけ無理をする程度の運動を自分なりにつづけてきた。しかしここに来て急激なこの痛みはなんだろう。月曜の朝、肩の痛みは更に激しくなっている。会社の仕事に支障をきたす訳にはいかない。自分で自分を叱咤激励しながら出かけていった。痛みは半端じゃない。だからと言って薬をほとんど飲まない久英は薬を飲む気もない。降って湧いたような“せっかく”の痛みを、くすりで消してしまってはもったいない。人間は自然治癒力があるから、少々のことは大丈夫と高をくくっている。

3月はじめ、先月あれほど痛んでいた肩も、随分よくなって日常生活にはほとんど影響がないほどになってきた。結局、あの戦意喪失させるような激しい痛みは、三日間で収束した。今日は、近くに新規開店したディスカウントストア・オープン二日目の土曜日である。今日の日替わり目玉商品は“電波時計”だ。前々からねらっていた電波時計である。70%OFFというチャンスを見逃す訳がない。朝10時の開店にあわせて出かけたが、どの駐車場も満杯状態。少々考えが甘かったようだ。開店で特別用意された駐車場の一番遠くの第五駐車場がわずかに空いていたのはラッキーだった。やっと店にたどり着いたが、入場制限で長蛇の列が出来ている。店内に入ると騒乱状態になっている。時計売り場も例外ではない。ショウケースの上には“アナログ”と“デジタル”二種類が陳列されている。幸い在庫はまだあったようだ。久英は迷わず“デジタル”を買った。

今日は、朝からついていない。パソコンのOCRソフトがどうしても立ち上がらない。プリンターは、印字がおかしくなっている。クリーニングして、印字パターンを何度か印刷したらインクが切れてしまった。気分転換にお気に入りのコーヒーでも買って来て飲もうと外に出ると、自転車がパンクしている。やっと店にたどり着いたら、お目当てのコーヒーは店頭から消えている。おかしい。どうもおかしい。どうしたんだろう。やることなすこと、みんな空回りしている。なぜだ?どうも異次元からジャブをくらっているような感じだ。しかし原因は何だ?修正能力を持っている久英にしても原因が分からなければ対策の立てようがない。その時“はっ”と気付いた。修正能力が何かの影響で出来なくなったのではないのか。とすれば、当然ゼロバランスの維持が危うくなってくる。早いうちに手を打つ必要がある。後になればなるほど軌道の誤差は大きくなる。原因を必死に探る久英。思い当たるのは唯一つ“電波時計”だ。昨日手に入れてから急におかしくなった。

久英は思い出した。3週間ほど前にあったあの肩痛だ。恐らく間違いない。あれは、今度の危ない状態を修正しようと必死でもがいていた症状だったのだ。なぜ電波時計が影響したのだろうか。電波時計の特徴は、常に標準時間をキャッチして正しい時間を表示ことにある。つまり、昨日から久英が支配する時間は全く狂いが生じなくなった訳だ。これが軌道修正を閉ざした原因ならば謎解きは簡単だ。つまり、久英は標準時間と自分の支配している時間の誤差を利用して時空を超え、自分や家族の人生の軌道修正をしていたのである。試しにそれまで使っていた時計がどれくらい違うか“117”でチェックしてみた。12秒違っている。それに比べると電波時計の誤差は10万年に±1秒である。これだと三次元を出ることも難しいが、一旦出たら恐らく帰って来れないだろう。久英は、電波時計の説明書を見ながら、電波受信をOFFにし受信インジケーターが消えるの確認した。

ゼロバランス 異次元からの制御 異次元からの制御(3)
随筆のページへ トップページへ