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三拍子の曲 金星探査機・あかつき
ハイブリッド車AQUA 蒔絵の硯箱

[2022/02/23]
三拍子の曲

曲の詞には心の哀感が込められ、曲はそれを鮮やかに表現する。多くの人にいつまでも歌い継がれていく曲は、心の支えとなる宝である。三拍子の曲で「ふるさと」という曲がある。この曲に激しく心を揺さぶられたシーンがある。東日本大震災では、大事な人を奪われ、生まれ育った町並みが消え、包み込んでくれた風景も跡形もなく消え去った。茫然とした人々が声を揃えて、涙ながらに歌った曲こそ「ふるさと」だった。『うさぎ追いしかの山、小ブナ釣りしかの川、夢はいまもめぐりて 忘れがたきふるさと・・・』。歌う人の心に、なつかしく麗しい情景がよみがえる。声を合わせて歌うことで、心の哀感を共有する。厳しい環境で歌が心を支える。

火野正平さんが自転車で全国を巡る「こころ旅」というテレビ番組がある。視聴者がずっと大切にしてきた、やさしさや心のぬくもりを感じさせる手紙が、思い出の風景とともに紹介される。思い出の風景には曲が伴うことも多い。私の思い出の曲と言えば「学園広場」(昭和38年)がある。卒業を前に、まさに青春真っただ中、ブラスバンドの練習が終わって、誰もいない夕陽に照らされた校舎の廊下。下手ながらも誰に遠慮することもなく、大きな声で歌いながら下校したシーンが懐かしく思い出される。妻に思い出の曲があるか聞くと「川は流れる」だという。この曲は、誰もいない静かなステージで、一人歌ったと言う。『病葉(わくらば)を 今日も浮かべて・・・嘆くまい 明日は明るく』。これも三拍子の曲である。さてその時、彼女の心に去来したものは何だったのだろうか。

過日、松山千春さんの「愛した日々」という曲を耳にした。輝いていた若き日の愛の思い出と、それを失くした今の心の葛藤(もし解釈が間違っていたらごめんなさい)を歌ったものである。この曲のリズムも3拍子だったように思う。もう久しく3拍子の曲を聴いていない。恐らく、私が聞いていないだけだろう。メディアが、数億回再生された曲だと言っても、私は一度も聴いたことが無い。スマホをイヤホーンで聴く時代である。紅白歌合戦で歌われる曲のほとんどが聞いたことのない曲というのがそれを象徴している。昭和という時代は、いい曲に全国民が聴き入り、心に留め、歌うことができた時代である。技術の発達がもたらす恩恵を認めつつも、失われていく心の共有が惜しまれる。

歌は時代を映す鏡」と言われる。昭和30年代は、歌謡曲の黄金時代だった。エネルギーあふれる時代、特に昭和36年は、そのエネルギーとバランスを取るかのように、哀愁を帯びた歌が歌われた。「川は流れる」、「北帰行」、「石狩川悲歌」などいずれも三拍子の曲である。「北上夜曲」「惜別の唄」なども戦前の歌がリバイバルされ当時歌われていたように思う。特に「惜別の唄」の作詞は島崎藤村である。歌謡曲ではないが、やはり三拍子の曲に「仰げば尊し」がある。卒業の歌として歌い継がれてきた曲だが、今ではあまり歌われていないようで残念である。歌謡曲は、その時代々々を背景に、ある時は気持ちを鼓舞し、ある時は気持ちを静める。特に三拍子の曲は、詞が心の穴を埋め、曲が深く心に焼きつける。

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[2022/02/20]
金星探査機・あかつき

(青少年科学館ホームページより)

(JAXAホームページより)

久留米市にある福岡県青少年科学館で、1/222/13JAXA企画の『巡回パネル展 金星探査機「あかつき」』が開催されていた。できれば行きたかったが、コロナ禍に加え遠くでもあり、残念ながら行けなかった。「あかつき」は、日本初の金星探査機である。地球の双子星とも呼ばれ、地球より少し小さいが内部構造は地球に似ているという。我々には「明けの明星」「宵の明星」あるいは「一番星」として馴染みのある天体である。明るく輝きビーナス(美の女神)と呼ばれている。金星は、地球の近くではあるものの、これまで厚い雲で覆われ詳細が分からなかった。そこで金星の大気を観測し、気象環境を解明することを目的として、JAXAは探査機「あかつき」を2010年に打ち上げた。ところが、金星の周回軌道に投入し、観測を行うまでに数々の試練を克服しなければならなかった。

 

「あかつき」は20105HUAロケットで打ち上げられ、7か月かけて同年12月に金星到着。金星の周回軌道に入るため、メインエンジンを逆噴射して速度を落とし、投入する計画だった。ところがメインエンジンが異常燃焼を起こし破損してしまったのである。充分な減速ができなかった「あかつき」は、金星を通り過ぎてしまった。だがここからがJAXAの粘り強さである。「あかつき」の軌道を計算すると、6年後に金星に近づくことが分かった。だが少しでも早く金星に近づけたいJAXAは、さらに軌道計算をする。その結果、予定より1年早く近づける軌道が見つかった。ところがこれでは、太陽の重力の影響で、5周目で金星に衝突してしまうことが判明。それでもJAXAは決してあきらめない。

 

何と!衝突を回避する方法を数万ケース調べ、その中で二つだけ可能な方法を見つけ出す。それは「重力ブレーキ方式」と「軌道変更方式」の二つだった。「重力ブレーキ方式」は、金星に近づいたら姿勢制御エンジンを噴射し、一旦金星から100万キロ離れたところに「あかつき」を持っていき、太陽の重力をブレーキのように働かせて探査機を減速させる。そうした後、金星の重力が捉え周回軌道に入るという方法だ。だがこれでは3%の誤差で金星に落下するリスクがあった。もう一つの「軌道変更方式」は、太陽の重力の影響が減るよう大きな軌道変更で金星周回軌道に投入するタイミングを遅らせるというものだった。こちらは誤差10%ほどで実行でき、リスクも少なくなく、結局この方法が選ばれた。

 

金星には「スーパーローテーション」という暴風が吹き荒れている。高度60km付近で、自転速度の60倍を超える秒速100mという猛烈な速さの風である。なぜこんな吹きつづけているのか。そのエネルギーはどこから供給されるのか。その謎を解くために「あかつき」は投入された。金星の上空100キロまでの大気層の内、高度約60km前後に濃硫酸の厚い雲が金星全体を覆っている。観測では雲の層が昼間太陽光で熱せられ、夜に冷えることで上下波打ち、そのエネルギーで他の大気を動かしていることが分かったという。つまり、厚い雲の層が太陽の熱を吸収したり、放出したりして、大きく振動して大気を動かす力を起こしていたのだ。「スーパーローテーション」と呼ばれる金星の暴風の謎が「あかつき」の観測によって初めて明らかになった

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[2022/02/17]
ハイブリッド車AQUA

先日、トヨタのハイブリッド車(以下HV)AQUAを譲り受けた。とは言え、まだ6500kmしか走っていない新車同様の車である。日本が世界に誇る先進技術HVである。HVは、かなり昔レンタカーでプリウスに一回乗った経験だけで、AQUAは初めてである。ほとんど乗っていないため、取り扱いの要領や燃費などほとんど把握できていない。ただコンパクトなので、運転はしやすく、またキーをポケットに入れたままドアの開閉ができるのが便利だ。通常走行に必要な最低限の情報しか理解していないが、車内の第一印象は、パネルに表示される警告情報などが随分と多い。その為だろうか450頁にも及ぶ分厚い取扱書がついている。少し走った感覚だが、モーターとエンジンが連動したECOモードによる走りが、これまで以上にECOを意識させている。

 

日本は自動車産業で世界を牽引してきた。その日本が世界に誇るHV技術だが、その未来は厳しい。今や世界は脱炭素への象徴として一気に電気自動車(以下EV)へのシフトへ動いている。日本は2035年までに新車販売をすべて電動車にするという目標を掲げている。ただし、これにはHV車も含んでいる。ところが世界を見ると、中国こそHVを否定していないものの、EUやイギリスは2035年には新車販売をガソリン車やHVを排除、EVのみという厳しい状況である。日本は優秀な車づくりや、自動車産業を支える裾野の広さが経済に与える影響も大きく、EVや車載電池の開発に出遅れた感がある。だがここにきて、EV開発へトヨタが4兆円の投資を発表したのをはじめ、日本の各メーカーも動き出した。加えて、異業種であるソニーが、EV業界への参入を発表するなど、自動車の概念そのものが変わりつつある。

 

初めてのHV車だが、乗っている人に聞くと、燃費は乗り方次第だが、リッター当たり25kmくらいはいくという。ガソリン価格が高騰している今、これまでの車が10〜11km/Lだったのに比べると有り難い話だ。少しは脱炭素への貢献と家計への貢献ができようというものだ。それにしてもガソリンの価格が高値止まりで一向に下がる気配が無い。政府は価格急騰を受け、抑制策として、元売り各社にガソリン、灯油などに1L当たり3円40銭を補助するという。価格を170円付近に抑えるのが狙いである。ガソリン高騰の原因は、コロナでガソリン消費が落ち込んで減産していた産油国だが、需要が回復してきたにも関わらず、それに見合う増産を見送っていることにある。産油国も、脱炭素への急激な流れに、先細りするのは目に見えている。この状況は当面続くと思われる。

 

今世紀中頃までにCO2の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成するためには、再生可能エネルギーへの転換が鍵を握る。電源構成で火力発電が76%を占める日本は、今厳しい立場に立たされている。四方を海に囲まれ70%が森林の日本は、洋上風力発電が重要な再エネの手段であることは間違いない。しかし、それこそエネルギーは風任せでは不安定きわまりない。資源の無い日本のエネルギー安定確保には、外国からの輸入にも頼らねばならない。今、世界ではLNGの奪い合いが起きておりLNGも高騰している。そんな不安定な先行きも考えれば、日本は、原発の再稼働なども含め、バランスのよい多様な電源構成が必要である。またエネルギー消費に占める我々家庭の比率は高い。我々は再エネに対するコストの負担増の覚悟と、省エネを心がけることは必須となる。
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[2022/02/13]
蒔絵の硯箱

先日、蒔絵の立派な硯箱を頂いた。「飾ってあるものの中で、気にいったものがあれば上げるよ」と言われ、迷うことなくこの硯箱を頂いた。「穏やかな川の流れ」とそこに舞い落ちる「もみじ」が金粉で描かれている。めぐる四季と豊かな日本の自然を想起させる。すばらしいものを頂いたので、早速、筆と墨、半紙を買ってきた。姿勢を正し、墨を磨り、書道に向かうのは小学生の時以来である。あれから60数年、単に字を書く道具だった万年筆型の筆ペンに慣れてしまっている。それでも小学生の頃は、県庁所在地で行われた書道大会に出場したこともある。今回、きちんと書こうとはしたものの、もはや筆づかいの基本などは忘れてしまっている。改めてその粗雑さを思い知った次第である。考えようによっては、これから少しずつ上達への道が開かれているともいえる。

 

テレビで「三屋清左衛門残日録」というドラマが、年末・年始に集中的に放送された。これは過去何回かにわたって放送されたものの再放送だった。殿様の御側用人だった清左衛門(北大路欣也)が隠居生活にもかかわらず、藩の派閥争いの中で、いろいろな人から頼りにされ問題解決に動き、また悠々自適の生活を楽しむというものだった。このドラマは、ほとんどが過去に見たものだったが、今回の再放送もすべて観た。このドラマの中で清左衛門が残日録という日記を書くシーンが何度も出てくる。それはそれは見事な字である。私はそれを見るため必ず録画した。残日録を書くシーンは、ビデオを一時停止して、じっくり観させてもらった。もちろん江戸時代の字であるから、古文書のようなくずし字なので難しいが、それでも見事な字に感動した。

 

「蒔絵」は、日本独自の工芸品である。誕生したのは奈良時代で、頂いたような日本の叙情的な風景が描かれ出したのは平安時代後期からだという。日本の漆文化の歴史は古い。岡村道雄著「縄文人からの伝言」にはこう書いてある。『縄文人たちは、漆の木を植え、樹液の掻きとり技術を持ち、祭りや祭祀用の器物を作っていた。漆工芸は自然物による総合的な技と美の極致を示す。まさに日本文化のものづくりの代表と言える』。日本人は四季それぞれが見せる豊かな自然と共に生きてきた。繊細で優美な感性は、その自然によって育まれてきたものである。その中で生きてきた祖先たちは、日々の暮らしの中で使い続けられてきたものを、より豊かなものにしてきた。日本の伝統工芸の基本は、自然を尊重するその精神にある。

 

自然を尊重するその精神を感じさせる作品に出合った。先日、天神のデパート三越で「日本伝統工芸展」が開催された。この展示は毎回観に行っている。今回の展示の中で注目したのが、松枝崇弘氏の久留米絣着物「盛りの光・雨音」だった。「日本工芸会奨励賞」を受賞した作品だった。優れた作品であるのはもちろんだが、この作品にかけた作家さんの思いにも惹かれた。『盛りに降りしきる雨の雫、音、そして連続する雫の中にきらりと輝く光の残像を5段階に分け染め上げた藍のグラデーションで表現しました。福岡県八女産のクララという植物の草木染めによる黄色と藍とが生み出す緑色の経緯の光の筋と絣の生み出す光はさわやかな春の季節感をイメージしています』。豊かな自然に根ざした美の世界に、作家さんの情熱が伝わってくる作品だった。

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