映画「あなたへ」ロケ地・薄香(うすか)
  
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平戸市は九州本土では最西端の地である。昭和52年、平戸大橋の完成により車で行けるようになった。映画でもこの真っ赤な吊り橋を健さんがキャンピングカーで渡って平戸に入る。平戸市内に入ると、ポイントになる信号や分かれ道に『映画あなたへ ロケ地「薄香」』という案内板がある。これに“方向と距離”が表示されているので、ほとんど迷うことなく行ける。平戸に入って約10分、山を超えると、下の方に薄香漁港が見えてくる。
案内板 薄香港
(物語)富山にある刑務所の指導技官・倉島英二(高倉健)のもとに、ある日、亡き妻・洋子(田中裕子)が、NGOに託していた絵手紙が届く。一枚目には「あなたへ 私の遺骨は故郷の海に撒いてください」と書かれていた。もう一枚は洋子の故郷の郵便局の「局留め郵便」で出すという。英二は、手づくりのキャンピングカーで、平戸を目指し一期一会1200キロの旅に出る。そして10日後、平戸に着き郵便局で二枚目の絵手紙を受取る。洋子の生まれ育った小さな港町を散歩するうち、古い写真館の前で足を止める。飾られている古い写真の中に、洋子の子供の頃の写真を見つける。写真の前にたたずむうち、心の中の迷いが消えていく。次の日、穏やかな海に出た英二は、洋子を優しく送り届けるように、そっと散骨をする。
映画のシーン 薄香港
薄香地区に入ると、確かに映画のシーンで観たあの雰囲気が感じられる。上の左の写真は、いよいよ健さんが妻の遺骨を抱いて出港するシーンである。大滝秀治さんが船尾に腰かけ、操縦席には三浦貴大君がいる。この場面の背景となっているのが、上の右の写真である。入り江の一番奥にあった。
食堂 郵便局
綾瀬はるかさんが働いているのが「濱崎食堂」である。実際には薄香には食堂は無く、ここは一般の民家だそうだ。それでも“のれんと看板”が映画のまま残されており記念写真を一枚。このすぐ裏手に、薄香公民館がある。健さんが局留め置きの郵便を受け取ったのがここだ。映画ではこの公民館を郵便局に模様替えして撮影している。実際の「薄香簡易郵便局」は、このすぐ近くにあった。
写真館 写真館
さて次は映画の中でも、最も印象に残るシーン「富永写真館」である。ここへ行く路地は実に懐かしく、昭和30年代を思わせる。この雰囲気を味わいながらゆっくり歩いた。どういう経緯でこの町に白羽の矢が立ったのか分からないが、よくぞこの町を選んだ。健さんが若き日の妻の写真の前で、帽子を脱ぎ、頭を下げ「ありがとう」と、コツンと窓を叩く。
ロケ地MAP パネル
通りがかりの町の人に聞いてみた。富永写真館の近くで会ったおばあさんは「写真館の前の撮影が終わると、高倉健さんがこっちの路地へ歩いて行ったんです。物静かな人でした」と話してくれた。また濱崎食堂の前では、健さんと握手をしたという男性に会った。「健さんが1シーン取り終えて、近くで腕組みをしていたんです。しばらくして近くにいた私に、健さんの方から“漁師さんですか”と話しかけてくれたんです。握手をしましたが大きな手で、実に男らしい方でした」と嬉しそうに話してくれた。
オランダ商館 じゃがたら娘像
このオランダ商館は最近復元されたものでまだ真新しい。オランダ商館は、江戸時代の初め、日本で初めて平戸に設置された。商館の中にある古い世界地図には「i.Firand」と平戸が表記されている。平戸は古くから外国に認識されていたのである。鎖国が進む中、1630年代に入ると貿易の窓口としてかなり繁栄した。ところが1637年「島原の乱」が勃発し、キリシタン弾圧がはじまり、幕府の締め付けが厳しくなる。ようやく軌道に乗リ始めた平戸のオランダ商館は、あっけなく取り壊され、長崎の出島に移される。
こしょろ こるねりあ
この時代の流れに翻弄された人たちがいた。平戸が貿易で繁栄するとともに、多くの外国人が入ってきた。ところが「島原の乱」後、幕府の締め付けが厳しくなると、外国人と結婚した女性とその子供たちは、国外へ追放されることになる。追放先はジャガタラ(ジャカルタ)だった。二度と日本の地を踏むことを許されない彼女たちの望郷の念は募るばかりだった。オランダ商館に展示してある「じゃがたら文」を読むとその切なさが伝わってくる。
日本こいしやこいしや、かりそめにたちいでて、又とかえらぬふるさとと思えば、心もこころならず、なみだにむせび、めもくれ、ゆめうつつとも、さらにわきまえず候へども、あまりのことにちゃづつみ一つしんじまいらせ候 あらにほんこいしやこいしや
  こしょろ  うば様参る
「じゃがたら娘像」の碑にもこの文が記載されている。今回は、ロケ地散策が第一の目的だったが、以前からこの「じゃがたら文」の実物を見たいと思っていたのでいい機会だった。

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映画「あなたへ」
2012年/1時間51分

監督:降旗康男
出演:高倉健
2013/10/27 健さん、文化勲章受章
高倉健さんが、文化勲章を受章する。半世紀にわたって主役を演じ続け、国民のみんなから愛されてきた証である。圧倒的な存在感がありながら、多くのファンが尊敬と親しみを込めて"健さん"と呼ぶ。プライベートは謎に包まれているが、健さんを知る人たちから聞こえてくるのは、その人柄の良さである。最高の栄誉をもって讃えるにふさわしい俳優であると言える。今回の受賞にあたってのコメントは次の通り。
「映画俳優として58年、205本の映画に出演させていただきました。 大学卒業後、生きるために出会った職業でしたが、俳優養成所では『他の人の邪魔になるから見学していてください』と言われる落ちこぼれでした。それでも『辛抱ばい』という母からの言葉を胸に、国内外の多くの監督から刺激を受け、それぞれの役の人物の生きざまを通して社会を知り世界を見ました。 映画は国境を越え言葉を越えて、"生きる悲しみ"を希望や勇気に変えることができる力を秘めていることを知りました。今後も、この国に生まれて良かったと思える人物像を演じられるよう、人生を愛する心、感動する心を養い続けたいと思います」
私は、映画「あなたへ」の随筆の中で次のように書いた。『スクリーンに映し出された健さんが、笑う、感動する、ただ海を見つめる、それだけで観客の心を打つ。その一つ一つが、健さんの"心の動き"をそのまま映し出しているからである』。今後も健さんの一挙手一投足が感動を呼ぶ、そんな映画を撮り続けてもらいたいと思う。


北海道旅行のとき、夕張のロケ地を訪れた



前売り券の半券 映画「幸せの黄色いハンカチ」のパンフレットより

映画「南極物語」パンフレットより 日本映画名作祭パンフレットより「網走番外地」