映画「あなたへ」を観て
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File No.120911

高倉健さんは、何だか制服・制帽姿で敬礼がよく似合う。「動乱」の青年将校、「鉄道員」の駅長さんなどのイメージからだろうか。今回は刑務所の指導技官である。長い人生を刑務官一筋に、実直に生きてきた倉島英二の生き方が、健さん自身のストイックな生き方と重なる。おそらく「あなたへ」は、健さんだからこそ作り得た映画である。だから言ってみれば、健さんの圧倒的な存在感で成立した映画である。スクリーンに映し出された健さんが、笑う、感動する、ただ海を見つめる、それだけで観客の心を打つ。その一つ一つが、健さんの“心の動き”をそのまま映し出しているからである。今回の映画は、降旗監督と20本目の映画だという。「あなたにとって、高倉健さんとはどういう存在ですか?」と聞かれて監督はこう答えた。「健さんは、昔から僕にとってのアイドルなんです」。健さんを知りつくした"健さんオタク"の降旗監督が、ワンカット、ワンカット慈しむように撮影し、仕上げたという。これは感動の健さん映画である。

富山にある刑務所の指導技官・倉島英二(高倉健)のもとに、ある日、亡き妻・洋子(田中裕子)が、NGOに託していた絵手紙が届く。一枚目には「あなたへ 私の遺骨は故郷の海に撒いてください」と書かれていた。もう一枚は洋子の故郷の郵便局の「局留め郵便」で出すという。その手紙を受取るまで、あと10日。英二は、手づくりのキャンピングカーで、平戸を目指し一期一会1200キロの旅に出る。英二は、旅の途中で出会う多くの人々と心を通わせる。それぞれが抱える家族や夫婦の悩みに触れ、洋子と過ごした日々のぬくもりがよみがえる。そして、平戸に着き郵便局で二枚目の絵手紙を受取る。洋子の生まれ育った小さな港町を散歩するうち、古い写真館の前で足を止める。飾られている古い写真の中に、洋子の子供の頃の写真を見つける。写真の前にたたずむうち、心の中の迷いが消えていく。次の日、穏やかな海に出た英二は、洋子を優しく送り届けるように、そっと散骨をする。

洋子は一枚目の絵手紙で、海への散骨を希望していた。英二は、ふるさとの海に無事散骨を済ませる。実をいうと私は、前々から海への散骨を希望している。以前私はこんなことを書いたことがある『人間は、最終的に原子まで戻るのか、あるいはクオークまで戻ってしまうのか。中途半端に「遺骨」などという個体の一部で残るなど、私にとっては何の意味もない』、『個体の生と死は、「魂」によってコントロールされている訳だから、魂の離脱した個体は、すでに人間としての意味を持たないということであろうか』。私が散骨を希望するのは、そんな考えがあってのことだ。しかし、映画では最初、漁業組合に交渉するが、組合としては難しいと断られる。外洋に出るのにボートではなく、大きな船もいるという。気軽に考えていたが、法的な問題も含めて、よく調べておく必要がありそうだ。

なぜ洋子は、英二をふるさとへ誘ったのだろうか。それに対する明確な答えは語られない。それは観る人ひとりひとりの心の中に答えがあるからだと言える。私が考える洋子の意図は二つある。旅の途中で出会う杉野(ビートたけし)が「放浪と旅の違いは"目的があるか無いか"です。旅の定義は"帰るところがある"ということです」と言う。洋子は、子供のころ故郷を出てきた。ある意味それまで"放浪"の状態だったと言える。英二と出会ったことで、洋子は人生を"旅"として完結させたかったのだろう。意図したもう一つは、英二にもっと自分を知ってほしいという想いである。実直な英二は、洋子と出会って15年、洋子のほんの一面だけしか知らなかった。英二は洋子に導かれ、旅の途中、様々な人生に出会い、平戸では洋子の育った海や町並み、人々の生活に接する。そして古い写真館の前で、子供の頃の洋子に出会った時、英二の心の中で、平面だった洋子の姿が、立体像に変わった。健さんは写真の前で、帽子を脱ぎ、頭を下げ「ありがとう」と、コツンと窓を叩く。その響きに絵手紙に託した洋子の想いは叶えられ、あたかも微笑んでいるかのように、キラキラと輝きながら両親の待つ海へ舞い降りていく。





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映画「あなたへ」ロケ地・薄香(うすか)


映画「あなたへ」

2012年/1時間51分

監督:降旗康男
出演:高倉健 、 田中裕子

2013/10/27 健さん、文化勲章受章
高倉健さんが、文化勲章を受章する。半世紀にわたって主役を演じ続け、国民のみんなから愛されてきた証である。圧倒的な存在感がありながら、多くのファンが尊敬と親しみを込めて"健さん"と呼ぶ。プライベートは謎に包まれているが、健さんを知る人たちから聞こえてくるのは、その人柄の良さである。最高の栄誉をもって讃えるにふさわしい俳優であると言える。今回の受賞にあたってのコメントは次の通り。
「映画俳優として58年、205本の映画に出演させていただきました。 大学卒業後、生きるために出会った職業でしたが、俳優養成所では『他の人の邪魔になるから見学していてください』と言われる落ちこぼれでした。それでも『辛抱ばい』という母からの言葉を胸に、国内外の多くの監督から刺激を受け、それぞれの役の人物の生きざまを通して社会を知り世界を見ました。 映画は国境を越え言葉を越えて、"生きる悲しみ"を希望や勇気に変えることができる力を秘めていることを知りました。今後も、この国に生まれて良かったと思える人物像を演じられるよう、人生を愛する心、感動する心を養い続けたいと思います」
今後も健さんの一挙手一投足が感動を呼ぶ、そんな映画を撮り続けてもらいたいと思う。

北海道旅行のとき、夕張のロケ地を訪れた






前売り券の半券 映画「幸せの黄色いハンカチ」のパンフレットより

映画「南極物語」パンフレットより 日本映画名作祭パンフレットより「網走番外地」