映画「007/スカイフォール」を観て 映画のページへ

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File No.121202
007第23作目の「スカイフォール」は、007シリーズ生誕50周年記念作品である。誕生したのは実に昭和37年(1962年)、私はまだ高校生だった。就職して「007危機一発」を観たときのあの感動は、今も鮮明に残っている。以来これまでの長きにわたって、スパイ映画の頂点を走り続けてくれた。それは生命の進化にも似た、イオンプロダクションの功績である。「生命」は、しっかりした基盤の上に、環境の変化に適応し、進化を遂げ、存在し続けている。アルバート・R・ブリッコリと、ハリー・サルツマンによって始められたシリーズは、ショーン・コネリーという逸材を得て、全世界に確固たるファンを作り上げた。その基盤は、バーバラ・ブロッコリと、マイケル・G・ウィルソンによって受け継がれ、時代の変化を鋭敏にとらえ、進化し続けてきた。それは「スカイフォール」で、新旧の対比がテーマのひとつになっているところに象徴されよう。高揚感に包まれて観る映画が、人生と共にある幸せに乾杯!!
イスタンブール。NATOの極秘情報が入ったハードディスクが奪われた。この銃撃戦によりMI6のエージェントのひとりが重傷を負った。ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、仲間の手当をしようとするが、M(ジュディ・デンチ)からの非情な指令が出る。「すぐに敵を追いなさい!ディスクを取り戻して!」。諜報部員のイヴ(ナオミ・ハリス)の運転する車で、黒のアウディを追う。敵がバイクに乗り換えると、ボンドもバイクで激しく追跡をする。二台のバイクが屋根の上を猛スピードで疾走する。敵が列車の屋根に飛び降りると、ボンドも列車に飛び降り、なおも追跡する。敵は列車を切り離そうとするが、列車に積んであったパワーショベルのアームを引っ掛け、前の車両に移る。敵を追い詰め、ついに列車の屋根の上で格闘になる。車でボンドを追い続けていたイヴが「行き止まりで道がありません」とMへ報告する。またもMから非情の指令が飛ぶ。「撃って!撃つのよ!!」。もつれ合う二人に銃弾が飛ぶ。イヴからMへ報告される。「007落下!」。
「スカイフォール」では、50周年記念に相応しく、いくつものサプライズが用意されている。まず第一に挙げたいのが「アストン・マーチンDB5」である。ボンドが故郷へ向かう途中、公用車から、「BMT216A」ナンバーのDB5に乗り換える。響き渡るボンドのテーマ曲。雄大なスコットランドの大自然の中を疾走するアストンマーチン。助手席のMが「乗り心地悪いわね。シートごと吹っ飛ばして」。ボンドが、シフトノブのボタンを押そうとする。じつに憎い演出である。ちなみに今回、DB5のフロントからマシンガンが発射される。復活した若きQから支給される拳銃は、もちろん「ワルサーPPK」である。しかも掌紋認証機能付きに進化している。Qから支給されたのは、このワルサーPPKと、発信器だけである。ボンドがもの足りないと言うとQは答える。「ペン型爆弾、あれは時代遅れです」。他にもいくつかあるが、最後にデスクワークになったイヴが、正式にボンドに挨拶するシーンは、ファンなら拍手喝采する。
「スカイフォール」では、「新旧の世代の対比」というテーマとともに「復活/再生」が描かれている。MのPCは乗っ取られ、行動を把握され、英国一のシステムは簡単に破られ、MI6本部が爆破される。生き延びたものの、すでにスパイとしての能力に疑問符が付くボンドだが、これを見捨ててはおけず復帰する。いくらテクノロジーが発達しようと、変わらないものがある。それは動かしているのが、感情を持った人間だということである。ボンドの、Mへの厚い信頼や、国への忠誠心が復活と再生へのエネルギーである。過日、開催されたロンドン五輪では、エリザベス女王と共に、ダニエル=ボンドが空から舞い降りてきた。文字通り「女王陛下の007」だった。「スカイフォール」に描かれるボンドの人間像が、映画に深みを与えている。私の007映画のベスト作品は、どうしても初期、ショーン・コネリー=ボンドの6作品になる。しかし、今回のダニエル・クレイグ=ボンドの「スカイフォール」は、これに加わってきそうだ。つまりこれを加えると、ベスト7になる。007映画らしくていいじゃないか。

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シリーズ誕生50周年記念作
「007/スカイフォール
2012年度作品/2時間23分/英・米
2012/12/01公開

監督:サム・メンデス
出演:ダニエル・クレイグ 、 ジュディ・デンチ
プロデューサー

バーバラ・ブロッコリ

シルヴァのアジト「デッド・シティ」は、長崎の軍艦島がモデル
2011年7月、007制作スタッフ(CG担当)が、映像収集のために、軍艦島(長崎市の端島・通称「軍艦島」)を訪問した。この時収集した映像を基に、デッド・シティの外観セットが造られた。映画の設定では、マカオの沖合にある廃墟の島で、シルヴァのアジトになっている。ボンドが島に向かう場面では、軍艦島の全景がCGで合成されたいう。