デイヴ・ブルーベック
このレコードは、最近アメリカで記録的なベスト・セラーとなったデイヴ・ブルーベック・クヮルテットの話題のLP“タイム・アウト”から、2曲をピック・アップしたものである。
さて“タイム・アウト”を直訳すると、「拍子が狂っている」といった意味になる。そこでブルーベック4重奏団が勝手気ままなテンポで演奏していると早合点してはいけない。要するに従来のジャズの基調リズムである4/4に縛られずに、各種の異った拍子で、演奏しているところから名づけけられた題名である。
ジャズは19世紀の終りにここの声をあげてより今日にいたる間に大きな変貌を遂げた。例えばコールマン・ホーキンス、半音階的奏法、ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカーのビ・バップに聴かれる漸新なハーモニーによる展開、デューク・エリントン楽団のテクスチェア(音色)の分野での開拓などがあげられよう。にもかかわらず不思議なことに、リズムに関してはあまり前進が見られない。もちろん、トゥー・ビートからフォー・ビートへ、スイング・リズムからオフ・ビートを注入されてモデンなリズムへ変化してはいるが、いまだにジャズのリズムといえば4/4であり、極言するなら ジャズ創設時の「イチニ、イチニ」という単純な行進曲的リズムから飛躍を遂げていないのである。
デイヴ・ブルーベックはクラシック音楽の豊富な知識を活用して各種の実験的な試みを行なっているが、ことにタイム(拍子)の面で、従来にないリズムを取り入れることを敢行した先駆者であった。ブルーベックの場合は、今までより広範囲わたってエキゾティックなリズム・パターンを使用し、しばしば、同時に2つの異なる拍子を対位的に用いてさえいる。“タイム・アウト”は彼のリズムにおける実験を徹底的に押し進めて、その成果を世に問うた作品集であり、ここには欧州古典音楽の形式、ジャズの自由な即興演奏、およびアフリカ民族音楽の変化に富んだ律動というふうに、3つの異なった文化が、いとも見事に融合されているのである。
サンフランシスコのローカル・バンドとして発足したブルーベック4重奏団の名声はまたたく間に全米に轟きわたった。米国内での大学コンサートに出演する一方、58年7月には有名なニューポートのジャズ・フェスティバルに参加、また英国、欧州大陸(ポーランドを含む)さらには中近東に楽旅して大成功を収めている。59年には再び英国、そして60年にはオーストラリアに脚を伸ばした。加えて数多くの優れたLPの発表により、ブルーベック・クヮルテットは名実ともに一流コンボとして今日のゆるぎない名声を博するにいたったのである。