糸島市に隣接する唐津市の脊振山系で風力発電事業が計画されている。先日伊都文化会館で開かれた事業者の説明を聞いてきた。参加者からは危機感をもって真剣な意見が出された。しかし、何を言っても“現地調査により把握し、予測します”の一点張りだった。今回がそうとは言わないが、大型の事業の事前調査は、調査する組織と水面下で打ち合わせ、事業を推進させるような評価を出すというのがよくあるパターンだ。今回の説明会で私の感じた印象は、言葉丁寧に受け流されたという感じだ。恐らく企業は、利益追求しか頭に無いのではないか。この事業では、「佐賀唐津」としているように、計画地に糸島市が入っていない。糸島市は、ただただ被害を受けるだけである。あえて大きな影響がない唐津市側にしたのではないのか。そんな勘ぐりもしたくなる。
私は新聞やテレビなどから得る情報しか持っていないので深い知識はない。しかし、大まかなイメージだけはある。菅政権は施政方針で「2050年・カーボンニュートラル」を宣言した。水素や洋上風力など再生可能エネルギーを拡充し脱酸素社会を目指すという内容である。風力発電に関して言えば、政府の方針は、海に囲まれた日本としては、洋上風力発電を有望な再生可能エネルギーと位置付けている。九州電力は、五島市で「潮流発電」の実証実験を始めた。潮流発電は、災害に強く発電予測が立てやすいという。地産地消の再生可能エネルギーとして期待されている。佐賀県立自然公園内で、CO2を吸収し災害から住民を守る保安林を切り倒し、生態系を破壊し、住民に危害を加える低周波を振りまくなど、自然環境をぶち壊す一私企業の事業に何の正統性も無い。
先日、私はこう書いた。
『イギリスの情報誌「MONOCLE(モノクル)」が発表した「輝く小さな街」の2021年のランキングで、糸島市が世界3位に選ばれた』。これは人口25万人未満の街を対象に、住みやすさや生活の質などを総合的に評価したランキングだという。MONOCLEは『糸島市は豊かな自然が残り、海の幸や農産物が豊富でありながら、都市へのアクセスが良く「生活の質が優れている」』。 |
2015年、国連で採択された30年の達成を目指す世界共通の目標「SDGs」の15は「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」である。今回のD社の事業計画は、この全てに違反している。
糸島市と福岡県の連名で作成された冊子「いとしま学」(中学生版)には『わがまちの生活の舞台・・・豊かな自然が生み出すいとしまの産業』として次のように書かれている。
『海と山に囲まれたわたしたちの糸島は、その広大で豊かな大地と対馬暖流がもたらす温暖な気候に恵まれ、昔も今も、農林水産業が盛んです。大消費地・福岡市に隣接していることも、糸島の多様な産業が飛躍・発展してきた理由のひとつで、安心で安定した食料供給基地としての重要な役割を担っています。また近年では生産者の研究・努力もあって、おいしくて安全な農林水産物は「糸島ブランド」としての認知度と評価が全国的に高まってきています。さらに、ヒトや地球環境にやさしい夢の水素エネルギーの研究開発への取り組みも、着実に進んでいます。人も、食も、歴史も、自然も、市民みんなで育む心地よい生活の舞台、それがわたしたちのまち糸島です』。 |
すばらしい自然環境と、農林水産物の魅力が、広く認知され始めた糸島のイメージを、次の世代に確実に受け渡していくのが我々の使命である。人の心の中にあるイメージは、非常に繊細なものである。「アリの一穴」でもろくも崩れ去る。今「糸島ブランド」は、緊急事態に瀕している。一私企業が、政府の脱炭素社会を大上段に振りかぶり、地域への影響を無視し、利益追求しか頭に無い事業など絶対に許さん。
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