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日本を継ぐ、現代アート
20世紀美術の変遷 映画「バスキア」

[2020/04/26]
日本を継ぐ、現代アート

日本を継ぐ、現代アートのいま

赤松音呂作品

宮永愛子作品
今年2月、天神イムズ・アルティアムで「日本を継ぐ、現代アートのいま」展が開催された。この展覧会はタイトル通り、日本文化が培ってきた伝統の美意識を現代アートで表現したものだった。外国文化を積極的に受け入れる日本の柔軟さ、豊かな想像力で作り上げてきた日本の美意識。それを受け継ぐ現代のアーティストたちの感性が新しい日本の美を表現する。[岡本/金子]作品の解説に『日本には古来から、山川草木・鳥獣など、森羅万象に神や精霊が宿るというアニミズムの思想があります』とある。この森羅万象ついて[赤松]は「ゆらぎ」と「宇宙」をも融合したインスタレーションを、[宮永]は、常にゆらぎ変化し続ける世界を表現している。

この二人の解説にはこう書いてあった・
[赤松]:赤松音呂のインスタレーションは、水の中で発生する渦巻きの音や、地球の磁気を利用した音の響きなどを、装置として視聴覚化したものです。「宇宙」のゆらぎが奏でる音の体験は、ミニマムな簡潔性知覚させ、精神的な拡がりへと増殖していきます。
[宮永]:ナフタリンや、塩や、陶器など、ものに形を与えることで、宮永愛子は常にゆらぎ、変化し続ける、世界の構造を提示し続ける作家です。そしてその静寂で儚いイメージのものと向き合う、他者の視線もまたゆらぐことで、宮永の問いかける、位相の意味の深さを体感することになります。

宇宙における「ゆらぎ」は、我々が存在するこの宇宙の歴史の中に、いくつも現れてきた。最初の「ゆらぎ」は、宇宙の始まりにおける「真空のゆらぎ」である。真空の中では「不確定性原理」により状況が定まらないゆらぎがあった。そこでは素粒子が対生成、対消滅を繰り返す。また宇宙そのものの存在も定まらないゆらいだ状態にあった。これがトンネル効果により生まれ、ビッグバンで今の宇宙になったのである。その後、宇宙全体にあったガス雲にも「密度のゆらぎ」があった。これが巨大宇宙構造をつくりだす。このガス雲の中では重力により収縮が始まり、原子太陽が輝き始める。

次に「渦巻き」であるが、「渦巻き」は、銀河形成、惑星誕生の基本的な“力”となる。存在する銀河の7割が渦巻き銀河である。まずガスやチリがゆっくり回転運動をはじめる。その中では重力により原始惑星円盤ができる。その後恒星ができ、惑星ができていく。我々の存在する銀河系は、棒状渦巻きの形をしている。太陽系は、この伸びた「渦状腕」の端のほうに位置している。毎秒数百キロメートルという猛烈なスピードで一定方向に進んでいるその渦状腕に、我々は身を任せている。宇宙の成り立ちにおける「ゆらぎ」と「渦巻き」によって、我々は存在している。

我々は宇宙という巨大な空間の中で生き、生かされている。我々の祖先は、その何か分からぬ大きな力に畏敬の念を持ち、それが自然崇拝の根源となった。我々は奇跡的な水の惑星に生存し、奇跡的に自然の豊かな日本に暮らしている。移り変わる四季の多彩な姿を愛で、長い時間をかけて繊細な感性を育んできた。受け継がれてきたその感性と創造力は、伝統として今に受け継がれている。アートは表現者が意識的にあるいは無意識的に、その受け継がれた特質を“いま”という時代を背景に作品にあらわす。そんなエネルギーを感じさせる現代アート展だった。
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[2020/04/17]
20世紀美術の変遷

ピカソ「バイオリン」

デュシャン「泉」
過日「フランス絵画の精華」展で300年にわたるフランス絵画を鑑賞した。古典主義に始まり、フランス革命という激動の世相を経て、ロマン主義が生まれた。そんな伝統の上に立って20世紀の近代絵画が花開く。ピカソに始まりロスコへと、20世紀の現代アートは、それまでの伝統的な美術の概念を根底から覆し、芸術の本質は何かを問いただす。

20世紀アート激変の幕開けは、ピカソやブラックによる「キュビスム」である。描く対象を複数の視点からとらえ、それを一つの画面に合成した。絵画だからこそできる試みだ。ピカソに影響を与えたのは、彼の唯一の師であるセザンヌである。セザンヌは、あらゆる角度から対象をとらえ、その存在が完全に見える方法で表現した。ピカソやブラックは、こうした概念に基づきキュビスムという新たな作品を生み出した。

デュシャンもまたそれまでの美術を批判し、新しい表現に取り組んだ。彼の絵画には時間の変化さえも表現された。「階段を降りる裸体」(1912)がそうである。その後デュシャンはそれまでの芸術作品の価値観を覆す作品「泉」(1917)を出す。既製の便器をそのまま出品したのである。日常品を組み合わせた作品を「レディ・メイド」は呼ばれ、現代美術に大きな影響を与えた。

その後抽象芸術が台頭する。この急進的な芸術の主導的役割を果たしたのがカンディンスキーである。観念や幻想といった目に見えない精神的な面を捉え、それを抽象的な表現で表す。そもそも芸術とは感情や深い精神性といった魂の表出であるが、カンディンスキーはこれをさらに強固にし、抽象絵画として20世紀の美術に重要な役割を果たした。

さらに解放された精神の表現を目指したのがシュルレアリスムである。シュルレアリスムとは超現実主義という意味で、生きることの自由を目指し、純粋な心をそのまま表現した。シュルレアリスムの代表的な画家が、ミロやダリである。特にダリは心理学者フロイトの影響を受けている。夢や幻想、無意識などありのままのイメージを描くことで心を解放した。

ところがこれとまったく逆といっていい思想「新造形主義」を提唱したのがモンドリアンである。彼は個人的な表現を排除した「純粋関係」を実現しようとした。水平線と垂直線の組み合わせに基づく厳しく秩序だった抽象表現へと向かう。芸術の表現において厳しく規定を設けるというのは理解しがたいが、抽象と非具象を目指す芸術家が結集したという。

1940年代になるとポロックやロスコといった抽象表現主義が台頭する。この二人は々抽象表現でも表現方法が全く違う。ポロックは、床に広げたキャンバスの上で迫力ある体の瞬間、瞬間の動きを残していく。一方、ロスコは情念的と言える深い精神性をキャンバスに表現した。単純な色面の中に込められた奥深さは、究極の中小表現と言える。我々の絵画の鑑賞が、自分自身との対話であるなら、ロスコの作品に極まる。

人間は想像力を持ち、抽象的な考えや現実を超えた世界までも絵画に表現する。それは人間の本質を表現したものである。だが本質を探究する人間自体、時代の流れとともに変化していく。激動の世紀と言われる20世紀。科学は素粒子の世界や宇宙の始まりまで解明する。芸術が時代の本質を表すものなら、革命的な芸術の変革はすなわち激動の世紀を生きた証でもある。

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[2020/04/05]
映画「バスキア」

映画「バスキア」より

映画「バスキア」より
「あらすじ」(4/5放送・映画解説より)
『1979年、ニューヨーク。アーティスト志望の若者・バスキアは、ある日、アート界の大物、アンディ・ウォーホルと画商のブルーノ・ビショップバーガーに出くわした。バスキアは、彼らに自分のポストカードを売ることに成功する。そんなある時、あるパーティで彼の絵を観た美術評論家ルネは、彼に心底惚れ込み「必ずスターにして見せる」と宣言。名門グループ展に参加して高い評価を受けたバスキアは、画商たちの注目を集めることになる』

それまで地下鉄の壁などに落書きをしていたバスキアだが、映画ではアンディー・ウォーホルとの出会いが彼のアーティストとしての才能を花開かせる。この出会いの直前、自分の作品の絵葉書を渡そうとしているバスキアに、ベニーがこんなアドバイスをする。「やっちゃだめだ。売るんだ」。このときウォーホルは、既に世界的に知られるビッグな存在。一方のバスキアは無名。しかし、バスキアは臆することなく10ドルで話を持ちかける。ウォーホル「いいじゃない。斬新だわ。でも時間をかけた作品じゃなさそうだから、いいとこ5ドルってとこね」。画商ブルーノ「時間は関係ない。作品の価値を決める要因のひとつは、いくらで売られるかだ」。これがニューヨークの美術界の価値観である。しかし映画では美術の価値についてこうも言っている。

『人はなぜ芸術を重要視するのだろうか。アーティストは下層階級の英雄だ。それは彼らが、自分の才能ひとつでスラムから這い上がり、成功を収めたからだ。アーティストの価値はいくら稼いだか、その金額で決まる。実に単純明快だ。一方、税務署に飾られている売れない画家の絵は、どんな境遇にも“美”が存在することを証明している。それは金儲けの手段としてではなく、純粋に安らぎを与えるために描かれたものだ。カネが絡むと、芸術は不純になる。無名の画家からすれば、売れた画家は、商売の奴隷かもしれない』

映画では「P・S・1 グループ展」で、バスキアの作品がメトロポリタン美術館の学芸員に購入される。バスキアはウォーホルに出会ったとき「ただ気ままに、筆を走らせただけ」と言うが、ウォーホルにして“斬新だ”と言わせた才能である。プロたちに才能を認められ、画商はバスキアの次の展覧会に向け動き出す。その動きは素早くイーストビレッジにアトリエを用意する。グラフィックアートの台頭で1980年代初頭のニューヨーク・イーストビレッジは活気づく。バスキアのグラフィックアートという芸術、あるいはアメリカにおける芸術性の在り方は、アメリカそのものである。才能を一気に花開かせ夢をつかむサクセスストーリーもまたアメリカン・ドリームの世界である。
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