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テレビの番組で「人気者でいこう」というのがある。出演のタレントは、一流芸能人という設定で、いろいろな事に挑戦し、それをクリアできるかどうかで本当に一流かを検証する番組である。その挑戦内容とは、「有名な料理人が作ったチャーハン」と「素人が作ったチャーハン」、「10万円するワイン」と「2000円のテーブルワイン」、「1万円の松茸土瓶蒸し」と「インスタントの松茸の吸い物」などを目隠しして目からの情報はもちろん事前の情報は全くないフラットな状態で判断するというものである。
全く情報を与えられてない状態での判断は、ただひたすら自分自身の五感による判断となる。番組では、自信にみちた解説つきで、安い方をうまいと選択する確率がかなり高い。いかに普段、情報に左右されているか、先入観や常識で味わっているかが分る。つまり、目や耳からの情報(値段が高い・一流シェフが作った等…)がわれわれの判断を狂わせている。10万円のワインは、10万円という値段に満足しているのである。本来、高いものがうまいのではない。うまいと思った方がうまいのである。一言で言うなら、「常識という名の非常識」であろうか。「満足とは、常識による心理的なものである」
「常識」という名の「非常識」と言えば、先日転勤に伴う歓送迎会があった。宴席が進むにつれ場も盛り上がり、お決まりの「一気」コールとなった。「一気!々々!そーれそれそれ!はい!はい!はい!はい!」とはやし立て、呑まざるおえない状況になる。一気飲みの洗礼をうけた者は、次の指名権を得る。少なくともその狭い一室においては、一気に飲むことが「常識」であり、その「常識」に支配され振り回される。新入社員の時期、歓迎会で急性アルコール中毒による死亡などという報道を見ることも稀ではない。「集団暴力」とも言えるこの風習は、まさに「常識」という名の「非常識」のなにものでもない。
最近、CD100万枚がごく簡単に売れる。800万枚売れたという驚異的なCDもある。「今話題だから、カラオケでみんなの前で歌えないと…」などの理由で「一応押さえとかないと…」と世間の流れに乗り遅れまいとCDを競って買う。情報による先入観のなせる技である。常識とは、大方の人が肯定する考えであろうから、そういう意味では、「常識でCDを買う」と言ったほうが正しい表現かもしれない。昔100万枚売れたレコードは、少なくとも「いい歌」だから皆が買った。純粋に好きな歌だから買った。レコードを買わない人も歌えた。「常識」は、世の中の移り変わりと共に変化してくるものであるが、購入動機において音楽本来のあり方からすれば、若干のずれがあるように感じる。そういう私がすでに現在の「常識」から取り残された「非常識」な年代になった証拠なのかもしれない。