美の鼓動−九州 随筆のページへ

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File No.160912

9月10日(2016年)から、福岡市東区にある九州産業大学美術館で展覧会「美の鼓動-九州」が始まった。非常に興味のある内容だったので早速鑑賞してきた。「美の鼓動-九州」は、TNCテレビ西日本で毎週日曜日に放映しているテレビ番組で、九州で活躍する芸術家を紹介している。番組のコンセプトは「九州のクリエイターを応援します」である。番組で紹介されたクリエイター27名を、九州産業大学美術館で展示し、直接その作品の息づかいに触れてもらおうという展覧会である。九州産業大学には芸術学部と美術館があり、九州における美術館、博物館の学芸員や専門職員の育成や研修の中核をなしている。そうした人材の育成、クリエイターの支援こそが、地域に芸術を根付かせる基盤となる。そんな九州産業大学美術館は、国内外の質の高い作品約700点を所蔵しているという。これら著名な作家の作品も、さまざまな展覧会を開いて公開しているというから、時々足を運んでみようと思う。

豊かな水、ふりそそぐ日の光、それによって育まれる木々、我々の日々の糧を育てる土。自然の恵み豊かな日本に育まれてきた日本人の繊細な感性は、その発露としての芸術に遺憾なく発揮される。その多様な美意識は、絵画、彫刻、デザイン、伝統工芸などあらゆる分野で発揮される。今回の展示のなかにも伝統工芸を受け継ぐ作品がいくつか見られた。会場に入ると、まず迎えてくれるのが辻絵具店・辻昇楽氏の作品「一輪指し」と「香炉」である。辻氏は、陶磁器に使われる日本最古の「和絵具」継承し、陶磁器とともに守り続けている。この技術は有田町から選定保存技術に認定されているという。展示作品は、真っ白な磁気に、控えめに色づけされた赤と青が映える。シンプルがゆえに気品が漂う。伝統工芸は、自然によって生かされ、自然と共生しながら生きる。自然との対話によって醸成された自然の恵みに感謝する心がある。さらにはそれを基本に据えながらも、時代の流れとどう向き合っていくかもまた伝統工芸に課せられた重要な一面である。

高田裕子さんの作品「水の森」がすばらしかった。太古の昔から、豊かな自然を育んできた歴史をたどる絵本が一枚のキャンバスに描かれている。この作品のそばにはその絵本「水の森」が置かれていた。一頁ずつ丁寧にめくっていく。そこには、みずみずしい自然が描かれ、頁ごとにつぎのような文章が書かれていた。
しずくが落ちてひろがる波紋  ながいながい時のうえに命が生まれる  やがて形になる  光に向かう  森が広がってゆく  無数の苔が森をおおう  まがりくねった木の根をささえる森のうごめき  水の音が聞こえる  光がふりそそぐ  生きる
一枚の絵に、悠久の時の流れを表現する。最後の「生きる」にこの絵の心が集約される。加えて、この絵本の出版社のコンセプトがいい。
アノニマスタジオは、風や光のささやきに耳をすまし、 暮しの中の小さな発見を大切に拾い集め、 日々のささやかなよろこびを見つける人と 一緒に本を作っていゆくスタジオです。

 会場の中央に、白木でらせん状に組み上げられた作品がある。松尾謙二郎氏の作品である。これ自体がすばらしい作品であるが、これはメロディを奏でる木琴である。そばに木のボールが三つ置いてある。鑑賞者が自由に奏でることができる。まず一個だけで聴いてみる。さらに、二個、三個で、輪唱を試みる。最後の"タララララ"というコーダに、聴く人は思わずにこりとする。 その横ではビデオによる作品を観ることができる。
朝もやの中、鹿が遊ぶ静かな森の中。木のボールが白木の長い木琴の上を、転がっていく。森の木々に語りかけるように"カン コン カン コン" 清新な空気の中で、森の精たちが聞き入っている。それを確かめるように、一小節の区切りに"コロコロコロコロ"というメロディがアクセントをつける。
日本人と木の関わりは深く、日本は木の文化の国といっても過言ではない。この作品は、木の持つ優しい響きが、人の生きる本来のリズム呼び覚まし、童心に帰らせる。
今回の展覧会では、九州の新進気鋭の作家の作品に触れ、新たな自分とゆったりとした時間を過ごした。


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九州産業大学キャンパスにて



マインスイーパ