(改組 新 第2回) 日展・福岡展 |
随筆のページへ トップページへ File No.160407 |
改組新日展は、審査のためのガイドラインが明文化され、これに基づく公平、公正な審査が実施されている。審査の所感を読むと、緊張感に包まれた審査の様子が伝わってくる。そんな新・日展の姿勢が評価されたのだろう。改組第2回にして、文化庁の後援を受け、内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞も復活した。しかし人間は、得てして安易な方に流されやすい。それが緊張感であるならなお更、守り続けていくには強い意志がいる。言えることは、審査に関わる人が、「日展」という権威の上に胡坐(あぐら)をかかないことだ。そして、審査ガイドラインにある「・・・築き上げてきた偉大な業績や大いなる遺産に対し敬意を払いつつ、自らの良心と芸術的信念に基づく審査・・・」を繰り返し心に刻み続けることである。「審査を終えて」の座談会に中に、日展の理念として、こんな発言が見られた。「<洗練された伝統的な感性>と<高い技術的達成度>をもとに、中庸で調和のとれた作品を創造すること」。外部審査員の加入による新しい風と、伝統ある日展の理念とのせめぎ合いの中に、新しい"日展らしさ"が生まれる。 |
「かわせみ」犀川愛子 |
「葵の庭」福井欧夏 |
「子守唄」川口もと子 |
4月3日の洋画部門のギャラリートークは、犀川愛子先生だった。日展に31年も関わってきたという犀川先生らしく、川口もと子さんの「子守唄」では「愛情まで描けているね」といった作家さん同士の会話など、作家さんとの交流の様子を織り交ぜながらの解説だった。福井欧夏さんの「葵の庭」がいい。澄んだ空気、やわらかな光、ゆっくりと流れる時間。そんなやさしい空間が、女性を包み込む。この作品とは全く反対に日本画の池田亮太さんの「階段」はインパクトがある。真っ暗な画面を観たとき、直ちにはこの作品を理解できなかった。我々は常に五感を使って、身の周りの情報を得ている。中でも視覚は一瞬にして膨大な情報をもたらす。その情報が入らない暗闇は、本能的に緊張感に包まれる。人間は外部からの情報をすべて遮断されると、考えがまとまらず、様々な幻覚が現れるという。椅子に座り、五感を研ぎ澄まし対峙した。かすかな光の中に、階段や樹木が浮かび上がる。さて階段の向こうには何が待ち受けるのか。そこには人間の特質であるイマジネーションの世界が広がる。この作品は観る人への挑戦か? |
「渇くひと」片山博詞 |
「さぁ、始まる! 生命の賛歌」佐藤敬助 |
同じく4月3日、彫刻では片山博詞先生のギャラリートークがあった。片山先生の作品「渇く人」は、テロ集団の日本人拉致事件に触発された作品だという。この事件に対する国民の心のあり方に警鐘を鳴らす。だが片山先生は、作品に向かう時、頭で考えるのではなく、手を信じるという。作家の心の世界に渦巻くものの発露として、我々の前に塊の芸術が現れる。彫刻は、人間性や人柄までも表現するために、1ミリ単位で付けたり削ったりするという。片山先生いわく「そのまま表現したらマネキンである」。佐藤敬助氏の「さあ、始まる!生命の賛歌」は、生命の輝きをテーマに、左足を一歩踏み出し、手も躍動感にあふれる作品であると解説された。そんな彫刻の世界にも少子高齢化の波が押し寄せる。近年の日展は若い人の挑戦が減ってきていると危惧する。しかしその中にあっても、片山先生は「日展は伝統があり、質を落とさないための厳しい審査をする。コンクールは一発勝負だが、日展は本当に力があるか、何回もチャレンジしてくる作品を見極め、メンバーとして大丈夫という人が会員になる」と話す。 |
「あしたへの祈り」荒木スミ子 |
「無限」松永好昭 |
「道TAO−無為」林香君 |
松永好昭氏の「無限」の中に、宇宙空間を漂う"分子雲"をみる。星間物質はやがて分子雲となり、限りなく繰り返される宇宙のいとなみが始まる。いつしかそこに生まれた重力は、荒木スミ子氏の「あしたへの祈り」にみる"渦"となる。それが渦巻き銀河になり、重力は中心にブラックホールを、外側に惑星をつくっていく。銀河の傍に逆向きの流れがあるのもまた宇宙である。この二つの作品の中に、壮大な宇宙をイメージした。今回、なぜか時空を感じさせる作品が印象に残った。山本清氏の「宙光季」は、作家のことばにこう書かれている。『わたしたちが存在するこの世界の根源とも言うべき宇宙の謎は解かれつつあるのか・・・・』。林香君氏の「道TAO−無為」には『人の力の及ばない大きな自然のエネルギーを、ひとかけら切り取り、形に落してみる』と書かれている。宇宙の流れと星間に潜むエネルギーを感じさせる作品である。中でもこの「道TAO−無為」は気に入った作品のひとつだった。作家と観るもののイマジネーションは、作品を介して限りなく広がる。それこそが芸術に接する楽しみである。 |
「マイルスによせて」佐藤哲 |
「花が・・・・(V)」西村祐一 |
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平成28年春・桜満開 | |