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File No.150601

「96時間」シリーズのリーアム・ニーソンについて以前こう書いた。「圧倒的な身体能力とスキルをもつ父親が、家族を守るために活躍する。戦闘モードに入ったリーアム・ニーソンは、どんなに危機的状況でも、破壊的な能力で突破する」。今回も戦闘モードに入ったリーアム・ニーソンは、その期待を裏切らない。壮絶な殴り合い、激しいカーチェイス、マフィアをガンガン撃ちまくり、最強の殺し屋を最後の一発で仕留める。腕利きの殺し屋だったとき身に付けた圧倒的なスキルは、戦闘モードでよみがえる。ただ今回の映画は、それだけではない。ジミーとマイク、ショーンとダニー二組の父子の心情、ジミーとショーンの友情、マイクとその家族への愛情などが織り込まれ、映画に厚みを与えている。監督のジャウム・コレット=セラは「親が犯した罪の報いが子孫の代まで及ぶという中心的なテーマに心を揺さぶられた」と話す。この映画は、脚本の勝利と言えるかもしれない。

かつては「墓掘り人」とまで言われた腕利きの殺し屋ジミー(リーアム・ニーソン)だが、今では齢をとり「俺は多くの罪を重ねてきた」と後悔の日々を送っている。そんなある日、ジミーの一人息子マイク(ジョエル・キナマン)が、ニューヨークを牛耳るマフィアのボス・ショーン(エド・ハリス)の息子ダニーが起こした殺人現場を目撃してしまう。マイクは殺されそうになるが、間一髪ジミーがダニーを射殺する。マフィアのボス・ショーンとジミーは「幼なじみで、切っても切れない仲」というほどの間柄だった。しかし、息子ダニーを殺されたショーンは、ジミーとマイクの殺害を指示。この戦いに25年もの間執拗にジミーに付きまとってきたニューヨーク市警の刑事や、ジミーを殺る仕事なら報酬はいらないという最強の殺し屋などが参戦する。ジミーは、マフィアや警察、殺し屋の手口は裏の裏まで知り尽くしているとはいえ、ニューヨーク中を敵に回し、生き延びる可能性「ゼロ」の孤独な戦いに挑む。

ジミーは非情の世界に生きてきた。仕事となれば、たとえ血のつながりがあろうとも、組織のために暗殺する。「お前たちを守るために、出ていくしかなかった」。家族を捨て、心に悲しみを抱えるリーアム・ニーソンの姿にはどこか哀愁がただよう。日本の昔の渡世人は、一宿一飯の恩義に預かりながら旅を続けた。そんな渡世人を歌った股旅ものといわれる歌謡曲がある。我々の時代では橋幸夫さんである。「おぼろ月夜の三度笠」の歌詞はこんな風である。『渡世となれば しがないものよ 恩義一つで人を斬る』。縁もゆかりもない人でも、切れと言われれば、心ならずも切り捨てるのが掟である。“義理と人情を秤にかけりゃ”だが、我が子となると話は別。ジミーがマイクの命を守ろうと、ショーンと交渉するが当然決裂する。ジミーは仁義を切り、マフィア相手に堂々の宣戦布告である。裏社会に生きるものの掟は、洋の東西を問わない。

ショーンは、裏社会で35年間生き延びてきた。今は合法的な実業家である。息子や家族のため、麻薬とは永遠に手を切っている。息子は親に認められたいと思い、親は息子の人生を守ろうとした。麻薬に手を染めようとするダニーを突き放したことが最悪の事態を招く。一方、ジミーは、どんなに窮地に追い込まれようと、マイクに一発も銃弾も撃たせない。ジミーは自分の全身全霊をかけて、マイクとその家族の人生を守る。危うい人生を生きてきたジミーとショーンだからこそ、子供への愛情もまたより深いものがある。「どこへ行こうと、一線を越えるときは俺たちは一緒だ」という友情も、結局、家族への愛情の下、思いとは違った形で最期を迎えることになる。父親への恨みから、一切受け入れを拒否していたマイクだが、「お前は人を撃つな」「俺と違う道を生きろ」と、自分の命を投げ出して守ろうとする父親の思いは果たして受け入れられたのか。いつの世も、親というのは、どこかさびしいものである。



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『ラン・オールナイト』
N.Y.中に狙われた男 、生き残る可能性ゼロ
2015年05月公開/アメリカ/114分
監督:ジャウム・コレット=セラ

出演:リーアム・ニーソン 、エド・ハリス他


橋幸夫さんの股旅ものベスト3
渡世人といえば、心の奥に傷を持ち、故郷へのあふれる想いを胸に、一宿一飯の恩義に預かり、旅を続ける。『義理と人情は渡世の手形 大手ふる身じゃないけれど オッと長脇差(ながどす)一本を 抱いて寝る身は夢さえ浅い 情け 情け知らずの旅鴉(たびがらす)』(おぼろ月夜の三度笠より)。それは明日の命の保障などない孤独の世界である。そんな渡世人を歌った曲で、哀愁をおびた曲調と歌詞、橋さんの声質で見事に表現していると思う曲を3曲選んでみた。
(1)「月夜の渡り鳥」佐伯孝夫作詞、吉田正作曲(昭和38年)
(2)「伊太郎旅唄」 佐伯孝夫作詞、吉田正作曲(昭和35年)
(3)「中山七里」   佐伯孝夫作詞、吉田正作曲(昭和37年)






心が動いたら即撮影