安全保障法制 | 随筆のページへ トップページへ File No.150328 |
去年7月安倍内閣は、切れ目のない対応が出来る法整備や集団的自衛権の行使容認などを閣議決定した。これを受けて今月20日、自民、公明両党は、安全保障法制の骨格について正式合意した。4月の統一地方選後に、具体的な条文の検討に入り、5月には国会に法案が提出される。今回の方針は、新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)に反映され、安倍首相の訪米では、日米同盟の強化が世界に示されるはずだ。中国の軍事的な脅威により、日本の安全保障環境は大きく悪化している。今回の法整備は、米軍以外の他国軍への支援なども含め、大きな抑止力になる。日本国民の平穏な暮らし、アジア太平洋地域の平和は、軍事力のバランスによって維持される。安倍首相は、防衛大学校の卒業式で「軍事力は戦うだけのという発想はもはや時代遅れだ」と述べ、紛争予防や復興、人道支援を含めた自衛隊の強化に取り組む方針を示した。戦争をしないための安全保障法整備である。 |
「周辺事態法」が抜本的に改正される。我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態に対応し、米軍と共同作戦をとる他国軍も支援対象となる。活動範囲は「現に戦闘が行われている現場以外」とし、弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油も解禁となる。これらは、あくまでも日本の存立が脅かされる「新事態」あるいは「重要影響事態」という概念に基づくものである。安倍首相は昨年、日本、インド、オーストラリア、ハワイを結ぶ「セキュリティ・ダイヤモンド構想」を提案した。一国だけでは自国を守れない現状において、米軍だけでなく関係国と連携を深め、安全保障を強固にしておく必要がある。改正では「周辺」という地理的制約がなくなるが、そもそも現行法においても、具体的な地理的条件は規定されていないという。最新鋭の武器を考えれば、距離的な制約は現実に即していない。どこであろうと日本に重大な影響を与える事態は発生する。現実に即した、効果的な法改正と言える。 |
これまで事態発生の都度、時限立法として特別措置法が制定されてきた。たとえば「イラク復興支援特別措置法」「テロ対策特別措置法」などである。今回、これを改正し「恒久法」を制定する。自衛隊を海外に派遣し、国際社会の平和のために活動する他国軍の支援をする。後方支援といっても、周辺事態法と違って、日本の存立に関係する事態ではない。人道復興支援、など、武力を伴わない派遣である。当然派遣するにあたっては、クリアすべき前提条件が定められる。「国連決議に基づくものであること、関連する国連決議があること」などである。さらに重要なのは「自衛隊員の安全確保」である。恒久法として大枠が定められれば、自衛隊もそのための準備ができ、それだけ安全が確保される。ただ恒久法といえども、基本的には派遣に際し国会の事前承認を得るという。すったもんだの挙句、派遣時期を逸してしまえば貢献の価値がなくなる。くれぐれも、そういうことのない恒久法でなければならない。 |
強固な日米安保体制を基軸として、米軍と共同作戦で戦う国とも連携し、より高い抑止力を実現させる。それは即ち、日本の国民の生命、自由、幸福追求の権利を守るという強い意思表示である。憲法の制約のある中、今回の大幅な安保体制の見直しの方向性を評価したい。さらにもう一つの大きな柱は、世界平和への貢献である。国連が行うPKOのみならず、EUなど国連以外の国際機関の平和協力活動にも参加の意向である。資源も食料も世界に頼り、また世界でビジネスを展開する経済大国・日本である。世界が期待する役割があり、それを果たすべき責務がある。一国平和主義という閉鎖的な思想はもはや世界に通用しない。だがその実施のためには、これもまた自衛隊員の安全確保が前提条件になる。情報収集と分析、的確な判断といった高度なインテイジェンスなども求められよう。安全保障法制は、昨年の閣議決定を「大見出し」とすれば、今回の自公合意は「小見出し」の段階である。これから検討される具体的な法案に注目したい。 |
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