映画「96時間・レクイエム」
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今回の「96時間レクイエム」は、シリーズ三作目で、最終章になっている。1作目では、パリで誘拐された娘・キムを、マフィアの手から救いだす。2作目は見ていないが、キムとレノーアを救出し、ヨーロッパの犯罪組織を壊滅させる。今回、第1作の「96時間」をテレビで観て、映画館へ足を運んだ。リュック・ベッソン製作・脚本で、三作品とも圧倒的な身体能力とスキルをもつ父親が、家族を守るために活躍する。「96時間」というタイトルは、第1作で、誘拐されたキムを96時間以内に助け出さないと、永遠に戻らないという設定から来ている。今回はその時間的な制約はなかった。戦闘モードに入ったリーアム・ニーソンは、どんなに危機的状況でも、破壊的な能力で突破する。特に第1作では悪が、若い女を人身売買や娼婦にするため、誘拐を繰り返すマフィアだったこともあり、容赦なく撃ち殺す。元同僚の協力はあるものの、ひとりで悪に挑む無敵の父親の姿は、観客を陶酔させるのに十分である。

ブライアン・ミルズ(リーアム・ニーソン)は、CIAの工作員だった。仕事で家庭を顧みず離婚、愛する娘・キム(マギー・グレイス)は元妻の再婚相手と暮らしている。ブライアンは、キムとの間を修復したい為工作員を引退した。引退後、彼は元CIA工作員という卓越した能力で、2回家族を危機から救っている。そんなことから娘・キムの信頼は厚く、ブライアンを理解している。元妻・レノーア(ファムケ・ヤンセン)は、夫との仲が壊れかけていた。今はブライアンが精神的な支えになっている。そんな中、レノーアから「ベーグルを買ってきて。お願い」というメールが入る。出来たてを買って帰宅すると、レノーアが殺されていた。状況を把握する間もなく、通報があったということで、警察が踏み込んでくる。その場は制圧して逃走するが、ブライアンは殺人の容疑者として、追跡を受けることになる。「狙うのはお前じゃない。キムだ」。犯人の次の標的は愛する娘・キム。無実の証明とキムを守る為、元同僚たちの協力を得て、捜査を始める。

リーアム・ニーソンのような、荒々しい雰囲気のある俳優は、最近少なくなった。派手なアクションを演じても、どこかスマートさがある。時代が違うと言えばそれまでだが、昔はそんな俳優がたくさんいた。ちょっと並べてみるが、昔を懐かしむオールドファンの"たわごと"だと思って聞いてほしい。ジョン・ウェイン、カーク・ダグラス、バート・ランカスター、リチャード・ウィドマーク、そうユル・ブリンナーやリー・マービンもいた。並べてみると、みんな強烈な個性を持ち、どこか西部劇が似合いそうな俳優である。「大いなる西部」では、グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンが、草原の真ん中で延々と死闘を繰り広げる。リーアム・ニーソンについての知識は、ほとんど無に等しいが、北アイルランド出身で、193cm、ボクサーの経験もあるという。荒々しい匂いがする一方で、娘を盲目的に愛していても、どこか本当の姿が見えていない鈍感さもまた似合っている。

今回、「あの刑事さんは賢いぞ」と言わせた、ロサンゼルス市警のフランク・ドッツラー警部(フォレスト・ウィテカー)の有能な刑事ぶりに好感がもてる。ブライアンがあっさり警官に捕まり、逮捕の報告を受けると、「遊ばれてる。すぐ車を止めろ」。警部は、最初現場を調べた時から、犯人はブライアンではないと察知していた。「彼は危険な男ではない。彼が生きてる世界が危険なんだ」。ブライアンは、悪を圧倒する破壊力から「無敵」という表現がよく似合う。第1作では、キムを誘拐したマフィアにこう言い放つ。『お前が誰だか知らん。お前の狙いが、身代金目的なら、カネなど無い。だが、俺には特殊な能力がある。長年の仕事で身につけた、お前らを震え上がらせる能力だ。娘を解放するなら見逃そう。お前を捜すことも、追跡もしない。だが、開放しないなら、お前を捜し、必ず見つけ出す。そしてお前を殺す』。「お前らを震え上がらせる能力」これぞブライアン・ミルズである。

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『96時間/レクイエム』
2014年/米/109分

製作・脚本:リュック・ベッソン
監督:オリヴィエ・メガトン
出演:リーアム・ニーソン
    マギー・グレイス
    フォレスト・ウィテカー

容疑者となった無敵の父親の
最も非情で危険な暴走が始まる。