映画「インターステラー」
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「地球の寿命が終わる。人類は滅亡するために、生まれた訳ではない。人類の挑戦が始まる。」。このキャッチコピーから、映画の内容はほぼ推測できる。興味のある題材と、久々のアン・ハサウェイということもあって観に行った。地球は今、人間の活動による温暖化で深刻な状況へと向かっている。それも産業革命以降、わずか250年のことである。地球の歴史からみれば、ほとんど「無」に等しいような時間である。発展途上国は、温暖化を認識しながらも、経済成長を優先させる。ひたすら快適さを求め続ける人類は、破滅へと向かっている。映画はこうした状況をベースに、相対性理論など科学的見地から、人類の未来を描く。「地球に帰ってきたら、お前と同じ年かも」。重力による時間のずれ、あるいは5次元の世界など、時空を超える宇宙の旅が描かれる。その一方で「愛には特別の意味がある。愛は時間や空間をも超える」と、人間らしさも織り込まれる。

深刻な食糧不足に見舞われ、地球の寿命は尽きかけていた。NASAでは10年前から、この地球規模の危機から人類を救う「ラザロ計画」と呼ばれる宇宙探査プロジェクトが進められていた。それは人類が居住可能な第2の地球となる新たな惑星を探すというものだった。理論物理学者ブランド教授が提唱する「土星付近のワームホールを利用して超光速で航行する」という理論をもとに、すでに12名の宇宙飛行士たちが探査に旅立っていた。その中のマン博士、生物学者ローラ・ミラー、素粒子物理学者ウルフ・エドマンズの3名から新惑星発見の連絡が入っていた。元パイロットのクーパー(マシュー・マコノヒー)は、ブランド教授の娘アメリア(アン・ハサウェイ)らと、連絡の入った新惑星へと向かう。その惑星は人類が移住可能なのか。もし可能だったとしても、重力理論がいまだ確立していない人類は、移住できる可能性は未知数である。そのためブランド教授は、移住できるとするプランAと、第2の惑星で、受精卵による人類の種の保存を目指すプランBを用意していた。

「テラフォーマーズ」というSF漫画がある。これは火星のテラフォーミングのために送り込まれたゴキブリと人類の戦いを描いたものである。テラフォーミングとは、簡単に言うと惑星を地球環境化するということである。しかし、この漫画は決して荒唐無稽な話ではない。火星には四季があり、一日も24時間余りなど、リズムが地球に近い。火星の北極や南極のドライアイスを気体にし、地下の氷を融かせば、大気と水が得られる。そのための温室効果ガスや、紫外線に強い遺伝子をもつ微生物など、様々な研究が進められている。折しも今朝の新聞にはNASAの次世代宇宙船「オリオン」が12月4日、初の無人飛行に挑むと出ていた。「オリオン」は、2030年代半ばに、火星への有人飛行に使われる。映画で「移住可能な星は1000年先だ」と言っているように、ワームホールを通らなければ、第2の地球への到達はおぼつかない。火星の地球環境化は、今考えられる一番現実味のあるプランではないだろうか。

この映画では「時間と空間」というキーワードが重要になっている。土星付近のワームホールを抜けるとき、激しい振動と音の中で言う「時空が歪んでいる」。最初の水の惑星は、重力が地球より30%重い。「1時間は地球の7年だ」「こうしている間に人類は絶滅するぞ」。ほんのわずかな時間のはずが、地球では23年の歳月が流れていた。我が子が大きく成長し、家族みんながそれなりの人生を歩いている。そんな様子がビデオレターで届く。さて問題は人類が移住できるかどうかである。クーパーは、アメリアを生き残らせるため母船に残し、自らは降下艇を切り離し、ロボットのTARSとブラックホールに落ちていく。「量子データがあれば、人類は助かる」。ブラックホールを抜けると、そこは5次元の世界だった。「今、俺たちは3次元とつながっている」。クーパーは、TARSが得ていた量子データを、3次元にいる娘マーフにある方法で送る。
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「インターステラー」

2014年11月公開/アメリカ
上映時間2時間49分

監督:クリストファー・ノーラン
出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ

地球の寿命が尽きかけていることを知った人類の物語。
人類は存亡を懸け、そして愛する者の未来を守る為に、
新たな星を探すことを決意する。

映画「ノアの箱舟」を観たとき、私は次のようなことを書いた。
人類は、環境の悪化による自滅か、小惑星の衝突などによる滅亡か、はたまた太陽にのみ込まれるか、いづれにせよ地球上の生物には、厳しい未来が待ち受けている。生き延びる為に、巨大宇宙船で太陽系を脱出である。しかし仮に第2の地球が、わずか5光年の彼方としても、恐らく100年はかかる。数千人が100年もの間、閉鎖された環境のなかで生態系を維持するのである。それに耐えるには、人間はあまりにもひ弱すぎる。先日こんな報道があった。動物園や水族館から動物がいなくなる危険を回避するため、動物の配偶子(精子と卵子)を凍結保存する取組が進んでいるというのだ。マイナス196度の液体窒素入りタンクにラッコやホッキョクグマなど希少種の配偶子が保存されている。これらの配偶子は、放射線を防げば、半永久的な保存が可能で、配偶子さえ残しておけば、将来の技術の進歩で種の保存の可能性が広がるという。渡りに箱舟とまでは言わないが、ひとつの可能性ではある。
これはまさに、今回の映画で描かれる「プランB」である。アメリアは、このプランBで人類の種を守るために、第3の惑星に留まる。しかし、現実問題として、宇宙船を作る素材や、宇宙船に持ちこめる材料では、強烈な紫外線から配偶子を守ることは難しいと言う。まずはこのあたりの克服と、火星のテラフォーマーズが人類が生き延びる為の最優先課題だろう。人類に残された時間は、そんなに長くは無いかもしれない。


「レ・ミゼラブル」でファンテーヌを演じたアン・ハサウェイ