映画「ふしぎな岬の物語」 映画のページへ

随筆のページへ

トップページへ

File No.141018

この映画は、吉永小百合さんが、はじめて企画から携わった映画である。小百合さんは、岬のカフェに集う人たちに寄り添い、やさしく包み込む悦子の生き方を、心を込めて演じている。成島監督は「笑顔や人に対する優しさなど、吉永さんのナマに近いところがそのまま味わえる映画が作れたら・・・」という思いでつくった映画だという。つまりこの映画は、人間・吉永小百合さんがいてはじめて成り立った映画なのである。そして小百合さんのもとに豪華な共演者たちが集結した。表現が不器用で誤解を生むが、まっすぐで人間味あふれる浩司役を阿部寛さん、都会に疲れて帰ってきたが、悦子や父親や浩司の優しさに触れ自分を取り戻していくみどりを演じる竹内結子さん、あふれんばかりの悦子への想いが伝えられず、引き裂かれるような切ない別れ演じたタニさん役の鶴瓶さん。小百合さんと存在感のある共演陣によって、観る人の人生観を変えてくれるような温かい映画がつくられた。

のどかな太陽と海に抱かれて、独特の時間が流れる岬村。その岬の先端に、静かに佇む「岬カフェ」。店主・柏木悦子(吉永小百合)の朝は、カフェの裏で”何でも屋”を営む甥の浩司(阿部寛)と小舟で小島に出かけ、湧き清水を汲むことから始まる。どこか懐かしさの漂うこのカフェで、何より人々を和ませるのは、注文を受けてから豆を挽き、ネルドリップで丁寧にいれた、心づくしのコーヒー。常連客に囲まれた、ささやかな生活を、悦子は愛していた。たびたび問題を起こす浩司と、そのよき理解者である悦子のふれ合いをずっと支えてきた常連客のタニさん(笑福亭鶴瓶)。30年間という長いつき合いの中で、タニさんはひそかに悦子への想いを育んでいた。地元の秋祭りの日、漁を営む徳さん(笹野高史)の娘・みどり(竹内結子)が、数年ぶりに帰郷した。素直になれない父娘にも、悦子はそっと寄り添った。・・・みんなで喜びを持ち寄り、悲しみを分かち合う・・・(映画パンフレットより)

映画の冒頭のシーン。カフェの前で絵を描く画家がいる。だがそれは悦子の心の中のイメージだった。「悦ちゃんは、毎朝、不思議な時間を過ごす。まるで夢遊病者のように」。その画家は、早くに亡くなった悦子の夫である。カフェの壁を飾る、虹のかかった岬の絵は夫の遺作だった。人は肉体が滅びたときが「死」という訳ではない。その人を想う人がいる限り生き続けている。人が手を合わせる姿、それは心の中に生きている大切な人に対して語りかけている姿である。生木を引き裂くような別れをしたタニさんだが、遠く離れていても心は繋がっている。人の存在は、目の前に居る、居ないではない、心と心が繋がっているかどうかである。その心の中の存在が、生きていく上での支えになり、背中を押して前に進めてくれる。みどりが、父親の優しさに触れ、泣き崩れるシーンは、感動的だった。みどりもまた心の中で生きている父親に支えられ、明日に向かって生きていくのである。

モントリオール世界映画祭で、エキュメニカル審査員賞を受賞したと聞いたとき、何となくではあるが、トルストイの「人生論」に、今回の映画を読み解くヒントみたいなものがあるのではないかと思い読んでみた。その「人生論」(米川和夫訳、角川文庫)で、トルストイはこんなことを言っている。『愛は理性のくだす結論でもなければ、なにか一定の活動の結果でもない。八方からわれわれをおしつつんでいる生命の喜びにみちた活動である』『真の愛は行為として形にあらわれないときも、たえず存在するふだんの状態でなければならない』。これはまさに今回の映画の悦子の生き方そのものである。人間だれもが生きていく上で、いろんな苦労を抱えている。それは、それぞれの人が、それぞれの幸せを目指していく上で起きる齟齬(そご)のようなものである。しかし、そこにこそ人と人の温かいつながりによる幸せが醸成されていくのである。

映画のページへ 随筆のページへ トップページへ

 第38回モントリオール世界映画祭:2冠受賞!!
  「審査員特別賞グランプリ」、「エキュメニカル審査員賞」
映画『ふしぎな岬の物語』
 2014年10月11日公開/東映
 監督:成島出
 出演:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史ほか

トルストイ 「人生論」
 
 米川和夫訳
 角川文庫

「愛は真実の生命に満ちあふれた一つの活動である」
小百合さんは、映画のモデルになった岬カフェのノートにメッセージを書き残している。上の可愛い女性は、そのメッセージに添えられた小百合さん直筆のイラストである。

2014/10/16 タモリさん、菊池寛賞受賞!!
タモリさんが、「第32回 菊池寛賞」を受賞した。受賞理由は次の通り。『32年間、生放送の「笑っていいとも!」の司会を務めるなど、独自の視点を持つテレビ番組の「顔」として日本の笑いを革新した』。

今回の映画「ふしぎな岬の物語」で、鶴瓶さんがいい演技をしていた。これまでの小百合さんとの共演の中でも、最も鶴瓶さんの良さが出ていたように思う。鶴瓶さんがMCの
テレビ番組「A−Studio」では、本当にリラックスした小百合さんの表情を引き出していた。小百合さんが、次は”夫婦役”をと言っていたが、タモリさん、これはヤバいぞ!