死生命有り 随筆のページへ

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File No.140707
タイトルは「死生(しせい)、命(めい)有り」と読む。意味は「人の命は、天の意思で、人の力ではどうにもできない」というものである。さて、その死生は、本当に天命なのか。今や科学は、神の領域に踏み込みつつある。先日、新聞で"生命科学"という言葉が目に留まり、これをキーワードに、インターネットを検索してみた。そこに現れたのが柳澤桂子著「われわれはなぜ死ぬのか」という何とも過激なタイトルの本だった。早速、その本を手にしたが、裏表紙には期待に違わぬ刺激的な文が記載されていた。
『われわれのDNAは、受精の瞬間から死に向けて時を刻み始める。ある細胞は自ら死を選び、また別の細胞は成長を止める・・・・遺伝子にはあらかじめ死がプログラミングされているからだ。なぜ生命に「死」が組み込まれたのだろうか』
著者は、生命科学者として、科学的知見に基づいて、「死」を解き明かしている。
細胞の死には二通りあるという。一つは外的要因による細胞の破壊である「ネクローシス」。もう一つは、自殺遺伝子により自爆する「アポトーシス」である。このアポトーシスを「能動的な死」としている。これは『発生におけるかたちづくり、からだ全体の細胞数の調整、不要あるいは危険な細胞の除去のため』だという。つまり、健全な個体を維持していくための「死」である。また細胞分裂においても、その細胞が健全でなければ進行しないという。そのチェックポイントは(1)DNAが傷ついていないか(2)酸素は十分にあるか(3)ウィルスが感染して発癌遺伝子が活性化されていないかなどである。『細胞を生かすか殺すかを見極める機構は生存にとって非常に重要で本質的な機構だったはずである』と書かれている。「生」を支える「死」。36億年という時間を生き抜いてきた生命が、学習し適応してきたシステムである。そんなシステムに護られ、地球上には、我々をはじめとする、膨大な生命が息づいている。
『生殖細胞は次の代の子供になる。またその中に生じた生殖細胞は、次の代の子供になるというように、その系列を追っていくと、生殖細胞は不死の系列とみなすことができる』。生殖細胞によって、生命は36億年受け継がれてきた。細胞は「種の保存」によって、「永遠の命=不死」を手に入れたのである。そこには当然、一代で役目を終える体細胞が存在する。言いかえれば不要になった個体である。ヘイフリックという学者は、細胞が一定回数の分裂ののち、死んでしまうことを発見した。細胞毎にその分裂回数が決まっているのでこれを「ヘイフリック限界」と呼ぶ。ヘイフリック限界に近づいた老化細胞は、細胞分裂をしない。細胞分裂の回数が、固体の寿命を計る時計のような役割をしているのではないかという。これも「われわれはなぜ死ぬのか」の回答のひとつである。ただし、分裂を停止した細胞も、すぐには死なず、死に至るまでは活発に動き回り代謝を続けるという。何だか身につまされる話である。
この本の中で宗教学者の岸本英夫氏の言葉が紹介されている。『死の問題を突き詰めて考えていって、それが<この、今、意識している自分>が消滅することなのだと気がついた時に、人間は愕然とする。これは恐ろしい。何よりも恐ろしいことである』。ヒトはなぜ「死」を恐れるのか。それは細胞が、危険を回避し、生き延びるために「死の恐怖」を植え付けているのである。「死」と対峙するということは、すなわち細胞が植え付けた本能と人間の闘いである。ところが著者は、自身の死生観を、この本のあとがきでこう書いている。『この本を書いてから12年になるが、・・・・最近は自分の死について考えることがほとんどなくなった。死は特別なものではなく、今日の生活とつながった一つの出来事にすぎない』。柳澤氏にとって「死」とは「今日の生活とつながった一つの出来事」でしかないのである。これこそ究極の死生観かもしれない。以前、私は「死」の瞬間を認識したいと書いた。私としては「死」を、個体と魂が分かれる人生最大のイベントだと思っている。とはいえ「ありがとう。じゃーね」くらいの別れとリセットなら、著者のいう日常に続く一つの出来事という死生観とそう矛盾はしないと思うが、どうだろう。

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2014/07/08 揚陸艦の導入を検討

米海軍・強襲揚陸艦「マキン・アイランド」
「揚陸艦」は、地上兵力を、港湾施設の無い砂浜などに上陸させるための艦艇である。防衛省は、海上自衛隊への導入を本格的に検討する。小野寺防衛相は「島しょ防衛のため、必要な部隊を速やかに展開できる多機能の輸送艦という意味合いで考えたい」と話す。これは中国の尖閣諸島侵略などを想定している。導入されれば、抑止力はかなり向上する。防衛相が視察した「マキン・アイランド」は、250m以上の甲板を持ち、海兵隊とともに、オスプレイや水陸両用車、ヘリコプターなど多数を輸送できる。一刻も早い導入を期待したい。