映画「WOOD JOB!」を観て
〜神去なあなあ日常〜
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この映画は、三浦しをん著「神去なあなあ日常」の映画化である。原作によれば「なあなあ」というのは、『「ゆっくりいこう」「まあ落ち着け」ってニュアンスだ。そこからさらに拡大して「のどかで過ごしやすい、いい天気ですね」という意味まで、この一言で済ませちゃったりする』となっている。しかし、映画で描かれる林業に携わる人たちの生き方は、これとはまるで反対の生き方のようである。杣人(そまびと)たちは、山に入るとき手を合わせる。「なめたら命落すぞ」。偉大な自然によって生かされていることを知り、一本一本の木々にいたるまで畏敬の念をもって向き合う。矢口監督の撮影に臨む考えもまた「なあなあ」とはほど遠い。全ての林業シーンを吹き替え無し、「祭りのシーンを限りなく実写で撮影する!」とオールロケで撮ったという。杣人たちの己を律した生き方、監督の妥協を許さない映画づくりがあるからこそ、クスっと笑えるコメディ調のエピソードも逆に活き々々と伝わってくる。
チャランポランで毎日お気楽に過ごしていた18歳男子・平野勇気(染谷将太)は、大学受験に失敗、彼女にもフラれ、散々な状態で高校の卒業式を迎える。そんなとき、ふと目にしたパンフレットの表紙でほほ笑む美女につられ、街から逃げ出すように1年間の林業研修プログラムに参加することに。ローカル線を乗り継ぎ降り立ったのは、ケータイの電波も届かぬ"超"が付くほどの田舎・神去村。鹿やら蛇やら虫だらけの山、同じ人間とは思えないほど凶暴で野性的な先輩・ヨキ(伊藤英明)、命がいくつあっても足りない過酷な林業の現場・・・・。耐えきれず逃げ出そうとする勇気だったが、例の表紙の美女・直紀(長澤まさみ)が村に住んでいると知り、留まることを決意するが・・・。(映画パンフレットより)
昨年の「建国記念日」にアップした随筆で私は次のようなことを書いた。
『何ごとのおはしますかは知らねども かたじけなきに涙こぼるる』これは西行法師が神宮に参拝したときに詠んだ歌である。神宮には様々な神様が祀られている。・・・・・古来より日本人は、自然の中に神を感じてきた。最古の神社である「大神神社」は、本殿はなくお山そのものがご神体である。自然の中に神々を感じ、敬い、その恵みに感謝し"かたじけなきに涙こぼるる"。神宮の神域に立てば、その凛とした空気に、自ずと背筋が伸び、清々しさに包まれる。それこそが日本人の世界観を形成してきた根源と言える。(2013/02/11)
「神去(かむさり)」という地名もまた、神様と人間との関わりの中で生まれたもののようである。日本は森林が国土の7割を占める自然豊かな国である。自然崇拝の精神こそが日本人の生活の基本といえる。
昨年の神宮の式年遷宮には、大正時代に植えられた木が一部使われた。第二宮域林では、100年、200年を視野に、ヒノキが育てられている。映画では105年前に植えられた木を切る。この木の年輪は、レコード盤のように均等だった。セリでもかなりの高値で取引される。これは苗木を植えて、何世代にもわたって、間伐の手入れなどいい仕事をしてきた証である。「ええ仕事をしたかどうかは、俺らが死んだ後なんや」。一本の木には、杣人の命と、木の命のつながりが息づいている。ヨキがこの木を切る時の、真剣な顔が印象的である。木を切ると同時に、新しい苗木を植える。こうしてゆっくりとしたリズムで命がつながれていく。この映画は、林業の仕事を通して「常若(とこわか)」の精神を教えてくれているようでもある。もちろん青春コメディとして、勇気と直紀の恋のプロセスが実にいい。それもまた命のつながりのひとつである。



尚、この映画は特に、エンドロールが終わるまで、しっかり観ることをお勧めする。
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映画「WOOD JOB!」

上映時間:1時間56分
公開日:2014年5月10日

原作:三浦しをん「神去なあなあ日常」
監督:矢口史靖
出演:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香ほか


神去村 (アートディレクション・花谷秀文 ドローイング・奥山潔)

(絵画) 2011年日展・成田禎介「山麓」
山深い里「五箇山」では秋の収穫に感謝し、日本最古の民謡「こきりこ節」を鎮守の神様に奉納する。それは何百年もの間、連綿と受け継がれてきた。そんな山あいで自然と共に生きている集落を思わせる作品があった。成田禎介氏の「山麓」という作品である。遠くに残雪の山、前に広がる森林と深い渓谷、その自然に抱かれて生きている小さな集落が描かれている。成田氏は、大自然の造形の見事さに魅かれている。作者のことばとしてこんなことが書かれていた。「自然は意図して作られたものではなく想像を超えた何かがあるように思えてならない」。(2012/04/06 随筆「第43回日展・福岡展」より)