映画「エージェント:ライアン」を観て |
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ジャック・ライアンは、作家トム・クランシーの小説の主人公として登場する。これまでにジャック・ライアンが登場した映画は、「レッド・オクトーバーを追え」「パトリオット・ゲーム」「今そこにある危機」「トータル・フィアーズ」の4本があるようだ。残念ながら私は「レッド・オクトーバーを追え!」しか観ていない。今回の「エージェント:ライアン」は、これまでのシリーズに登場する以前のエピソードとして、いかにしてジャックがCIAエージェントになったかが描かれている。製作スタッフ欄には、「キャラクター原案 トム・クランシー」と書いてある。つまり原作を基に、今回の映画のために作られたキャラクターである。内容も現代に合わせ、投資会社を背景に金融取引によるテロが描かれる。当然専門的な部分があり、字幕監修には池上彰氏が起用されている。 |
ロンドンの大学で学ぶ若きジャック・ライアン(クリス・パイン)は、9・11同時多発テロを報道で知る。「君の国だ。かわいそうに」。2年後、ジャックは自ら志願して海兵隊員となり、軍用ヘリでアフガニスタンの最前線に向かっていた。「大した愛国心だ」。ところが敵のミサイルで撃墜され、瀕死の重傷を負う。「脊椎がやられた」。米軍医療センターで必死にリハビリに励むジャック。辛いリハビリだが、救いは美人医師のキャシー・ミューラー(キーラ・ナイトレイ)の存在だった。そんなジャックを遠くから見つめる人物がいた。それはCIAのウィリアム・ハーパー(ケビン・コスナー)だった。「まだ国に仕えたければ別の道がある」。それから10年後、ニューヨーク・ウォール街。経済テロ阻止を目的としたCIA情報分析班のアナリストとして働くジャック・ライアンがいた。密かに不審な資金の流れを探っていたある日、モスクワの投資会社チェレヴィン・グループの外貨口座へのアクセスが拒否されていることに気づく。チェレビン・グループ監査のためにロシアへ飛んだジャックは、第二次世界恐慌の可能性もある巨大陰謀を突き止める。敵の襲撃を受けたジャックだが、死闘の結果、バスタブで溺れ死にさせ切り抜ける。助けを求めるジャックに、ハーパーは「もう分析官じゃない。エージェントだ」と静かにピストルを渡す。 |
往年のスパイ映画は、米ソ冷戦を背景にしたものが多く、緊迫感があって面白かった。だが今回、対立の構図は米ロでも、経済テロが背景になっている。現実の世界ではアメリカ経済はかなり厳しい状況にある。米国議会の対立は一応の収束をみたが、問題は棚上げされたにすぎない。一方、アメリカ国債の最大の買い手は中国である。つまり中国は、米国最大の債権国になっている。昨年末、中国の米国債残高が大幅に減少した。もしこのまま中国が売却を続ければ、どこが買い支えて維持するのか、かなり懸念される状況になる。アメリカは経済的にも中国を重視すべき状況にあるのだ。安倍首相が靖国神社を参拝した時、アメリカは「失望した」というコメントを出した。このあたりにアメリカの現状が現れている。アメリカとしては余裕がないから、出来るだけ波風立てたくないのである。経済はテロの対象になりうる。映画は現実の世界での可能性を秘めている。 |
ハーパーはなぜジャックをリクルートしたのか。基本はジャックの「強い愛国心」だろう。9・11を見て、テロから国を守ることに目覚め、自ら志願して戦争の最前線に赴く。しかも、敵のミサイルに撃墜され「復帰は無理だ」と言われるほどのダメージを受けながらも、愛国心が揺らぐことはなかった。国家機密の中枢で働くには必須条件と言える。ジャックは、明晰な頭脳、強靭な精神力に加え、海兵隊で培った身体能力を持っている。ロシアで警備員の突然の襲撃を辛くも切り抜けられたのは、ジャックの持つすべての能力の結集と言える。「松葉杖はいつ取れる?」「歩く意思があれば」。「痛み止め2分間おあづけ。耐えられるから」。何かとキャシーと関わろうとするところなど、まるでその辺にいる普通の感覚をもった男でもある。これまでのスパイアクションの特化されたヒーローとは違っている。バランス感覚をもったヒーローらしくないヒーロー、それもまたエージェントとしてリアリティがある。 |
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『エージェント:ライアン』 2014年2月公開 上映時間:1時間46分 監督:ケネス・ブラナー 出演:クリス・パイン、ケビン・コスナー 伝説のCIA捜査官<ジャック・ライアン>新シリーズ、ついに始動! |
「レッド・オクトーバーを追え!」 1990年公開 監督:ジョン・マクティアナン 出演:ショーン・コネリー、アレック・ボールドウィン アメリカ大陸の目と鼻の先に、突如、姿を現した ソビエト原子力潜水艦レッド・オクトーバー。 ”アメリカへの攻撃か、それとも亡命か”。 その真相を確認すべく、 CIA分析学者ジャック・ライアンが活動を開始した。 |