映画「タイピスト!」を観て |
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私が映画館に到着した時には、すでに長蛇の列ができていた。係員の指示で並んだのだが、よく見ると約100人中おっさんは3人しかいない。肩身の狭い思いをしたが、そもそもこの映画を観に行こうと思った動機もいささか不純だった。1950年代が舞台で、オードリー・ヘップバーンを想わせるポニーテールとファッションという言葉に魅かれて観にいった次第である。そして、この映画はマイノリティおっさんの期待にも大いに応えてくれた。この映画はラブコメの王道ともいえるストーリー展開である。田舎育ちの娘が、たったひとつの才能を見出されて、猛特訓の末、頂点を極める。そのプロセスで洗練された美しさを手に入れ、紆余曲折の末、恋も成就する。大ハッピーエンドへ向かってまっしぐらである。観るほうは最初から結末の予測がついている。その観客の期待通りの展開で、場面が進むごとに納得し、心の中に満足を積み重ねながら、気持ちよく観るのである。 |
田舎育ちでドジな女の子ローズ・パンフィル(デボラ・フランソワ)は、憧れの職業・秘書を目指して都会に出てくる。そんなローズにはタイプの早打ちという才能があった。ローズは、ルイ・エシャール(ロマン・デュリス)の経営する保険会社の面接を受ける。だが、もともとドジで洗練されていないローズは、あっさり不合格になりそうになる。しかしここで簡単には引き下がれない。唯一の特技タイプの早打ちを、実力行使で猛然とアピールする。その才能に動かされたルイは、秘書として1週間の仮採用をする。ところが、電話を受けてればメモ用紙に困ってルイの手のひらにメモり、大切な書類はシュレッダーにかけてしまうというドジぶり。「ローズ、君を1週間みてきて、秘書には向いていない。君を雇い続けることはない」といいながらも、ルイは一つの条件を出す。それはタイプライターの早打ち大会への挑戦だった。「参加じゃない。勝つんだ!」「誰かが手をかければ開花する」。ルイは自宅にローズを下宿させ、猛特訓が始まる。 |
監督はデボラ・フランソワに、前もってオードリー・ヘップバーンの「麗しのサブリナ」「昼下がりの情事」「パリの恋人」「マイ・フェア・レディ」を見ておくことを指示したという。私は映画を観ている途中でふっと思った。これはまぎれもなくヘップバーンの「マイ・フェア・レディ」だ。育ちの良くない花売り娘イライザ(オードリ・ヘップバーン)をヒギンズ博士が自宅に住み込ませて猛特訓をする。次第に貴婦人へと変身していくイライザ。そして、大使館のパーティーでは、トランシルバニア皇太子からダンスの相手に指名されるまでになる。目的を達成した後、ヒギンズは心の中に芽生えた恋心に気づく。こうして改めてストーリーを見直してみると、その底を流れる骨組みが驚くほど似ている。「タイピスト!」は、実話を基に作られたと聞くが、まぎれもなくオードリー・ヘップバーンへのオマージュである。 |
この映画の解説では、50年代当時、女性の社会進出が始まったばかりだったという。ローズは父親が薦める村一番の良縁を断り、そっと家を出る。そんなところに時代背景が見て取れる。タイプライターの早打ち以外にこれといった才能もないローズだが、何にも増して強い意志がある。女性の社会進出の絶対条件と言える。これだけお世話になっているルイに一切媚びていない。ルイもまたすり寄ってくる後任の秘書を即刻クビにするところを見ると、そんな女性は好みではないようだ。ルイの父親が「弟たちだったらもっと儲かっている」と、兄弟と比べて劣っていると非難すると、ローズが猛然と反論する。「あなたは個性的ね。どんな男が好き?」「対等に扱ってくれる人」そんな会話からもローズの芯の強さが伺われる。今まさに日本でも女性の社会進出が求められている。ルイが言う。「私は、才能はひとつあれば十分だ」。女性の社会進出は、ある意味、男性側の固定観念の改革と言える。 |
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「タイピスト!」 2012年/フランス/111分 2013・08・17公開 監督:レジス・ロワンサル 出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ |
オードリー・ヘップバーン | ||