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エネルギー安全保障
私は3年半前、原発に関する随筆で、次のようなことを書いた。
その原因の多くはトラブルの多発など、業界全体の杜撰(ずさん)な体質にあるのではないか。そこで以前、三菱重工の航空宇宙本部の部長・浅田氏が書いたものの内容をかいつまんで書いてみよう。これは民間企業として初めてH2Aロケット(13号機・かぐや)を打ち上げ、成功した時のものである。
・・・・二度と同じ様な失敗をしない為にどうすれば良いかがMHI社内で議論され、一つの具体的な結論として品質評価活動が始まった。品質評価活動は、H-IIAロケットの試験機1号機から採用され、号機を重ねる度に評価内容がマンネリ化しない様、常に新しい視点が加えられた。これまでの品質レベルを維持するには自己チェック機能が働く様に第三者的な立場での確認も必要との認識に至った。メンバーが製造現場に張り付いて監督を行うと共に、全ての設計変更や不適合判定の是非についても確認を行っている。この様にして、二重三重の網を掛けて、品質に手落ちが無いかを慎重に判断している。正に社の総力を挙げての判定であった。・・・・ただひたすら、その後の全ての作動が無事に進むことを祈る。・・・打上げ執行責任者のみならず、関係者全員が最新情報を共有し、的確な判断が出来る様、仕組みを整えると共に、万一の事態に備えたリハーサルを何度も行った(抜粋)
この文書から、正に胃が痛くなるような緊張感が伝わってくる。いろいろな問題を抱えながらも、原子力発電は今後のエネルギー政策に不可欠である。この現状を肝に銘じ背水の陣で臨むなら、トラブルで何度も再開を延期した"もんじゅ"のようなことは起きないのではないか。

ついに「もんじゅ」に停止命令が出されることになった。全く改善の兆しの見えない杜撰(ずさん)な体質では仕方がない。保安検査の結果、1万点近くの不備があり、提出した報告書にも複数の不備があったという。不備の中には、非常用電源機器など重要設備の点検漏れもあったというから深刻である。この状況にありながら日本原子力研究開発機構の理事長は「ミスは起こるもので、形式的ミスが出るのはやむを得ない」と言ったという。これでは100年待っても改善はできまい。すでに「もんじゅ」には、1兆円の税金が使われている。なぜこれだけの国費を投入しても開発しなければならないか、その重要性を理解しているとは思えない。資源のない日本にとって高速増殖炉は「核燃料サイクル」の本命と言っても過言ではない。この杜撰(ずさん)きわまりない組織のトップが、東大教授で原子力安全委員長を経てきた人物だというから許せん話である。

原子力発電についてのもう一つの話題が「敦賀原発の活断層」の問題である。原子力規制委の有識者会議が、原発直下の断層が"活断層"であるとの結論を出した。ところがこの結論について、報告書は明確な根拠を示さず、真に納得のいく科学的知見に基づく結論というには疑問があるようだ。有識者会議の内部からも「根幹にかかわるデータがかなり不足している」という意見も出されているという。今年3月、東京の工場跡地の地中に打ち込まれていたコンクリート製の杭を、首都直下地震につながる立川断層の破砕帯と見誤った事件を覚えているだろうか。見学していた部外者に指摘されて、気付いたという情けない話である。原子力発電所の活断層を調査する有識者()の一人がその教授である。原発については"疑わしきは罰する"というのが基本であるから、有識者(?)たちも楽である。然したる根拠などなくても、とにかく「活断層の可能性を排除できない」と言っておけば何とでもなる。

エネルギー安全保障とは、市民及び産業のために、必要十分なエネルギーを、出来るだけ安く、安定的に確保することである。数日前、米政府がシェールガスの日本向け輸出を許可した。エネルギー安全保障にとっていいニュースである。日本は原発が止まって以来、火力発電で賄っている。その結果、燃料輸入によるコストが3兆円も増え、貿易赤字になっている。日本のエネルギーの現状は、自給率4%である。原油の海外依存率は80%を超え、しかもその内の80%を政情不安定な中東に頼っている。さらにそのシーレーンを中国が侵略しようとしている。中国は自国の数10年先のエネルギー安全保障を見据えて、死に物狂いで尖閣、沖縄、西沙、南沙を取りに来ている。日本のエネルギー安全保障は、かくも不安定な状況に立たされている。原発再稼働も含め、エネルギー政策の見直しは、喫緊の課題である。


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