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File No.121016

昨日(10/15)放映されたテレビドラマ「ダブルフェイス・潜入捜査編」を観た。組織に潜入した捜査官と、警察のエリートでありながら組織のスパイとして働く警察官の物語である。今回は潜入捜査官・森屋純(西島秀俊)を中心としたストーリー展開だったが、続編の「偽装警察編」では、組織のスパイ・高山亮介(香川照之)を主人公として描くという。しかし、続編はWOWOWでの放映(10/27)というから観ることはできないが、今回の「潜入捜査編」だけでも十分楽しめた。最初から組織内に捜査官が潜入していることが分かっているので、全編を通して緊張感に包まれた展開になっている。その中にあって森屋純は、善と悪の間をさ迷い、自分を見失いかけ、現状から抜け出そうと葛藤する。そんな純が、精神科医・奈緒子(和久井映見)に心の安らぎを求める。緊迫感と安らぎがうまく織り交ぜられ展開していく。しかし、観終わったときにはどっと疲れていた。


「犬、飼っているのはお互いさまじゃねーのか」「見つけ次第処分さしてもらいますよ」。こんな会話が、警視正と組長の間で交わされる。大きな麻薬取引に動く組織、それを押さえて組織壊滅をねらう警察。取引現場の刻一刻と変わっていく状況を、お互いのスパイが逐次報告していく。組織内の確かな情報、警察内のめまぐるしい動きは、現場に入り込まなければ分からない。過日それを象徴するかのような、現実世界の事件が起きた。福岡県警の警部補が、組織から現金を受け取り、警察の詳細な捜査状況を教えていた事件である。警部補は組織の情報を得るために、関係者と飲食をしたり、ギリギリの捜査で情報を得ていた。本人はそれを「俺は組織の中に連絡を取れる人間がおる。入り込まんと情報は取れん」と、自分の情報収集能力を自負していたという。ドラマのように組織も警察も、水面下でお互いスパイによって情報を得ようと必死なのである。


県の暴排条例が施行され、多くの企業・飲食店が、標章制度に基づくステッカーを貼った。ところが、これを機にこのステッカーを掲げた飲食店関係者が、次々と刃物で襲われる事件が発生した。いづれも死には至っていないので脅しの域である。それを最も象徴した事件が、警察OBが襲われた事件である。この警察OBは、現職時代30年間にわたって組織の捜査を担当し、情報源に食い込み、多くの事件を解決に導いたという。昨年春退職後、自宅周辺で不審車両が度々見かけられたため、保護対象として重点警戒がなされていた。それでも事件は起きた。多発する事件の容疑者の検挙は一向に進まず、他県警から多くの支援で警戒にあたるものものしい状況に、飲食店への客足は遠のき、暴排の心も折れそうになっている。警察はここが正念場というが、残念ながら現状は、市民の気持ちとはかけ離れた状況だと言わねばならない。


汚職の警部補には、4千万円という多額の借金があった。組織はここに付け込んだのである。警察だけでなく、懸念される部署に携わる人は、公私を問わず調査ができる法律をつくるべきである。また接触し入り込んでしか情報を得られないという旧態依然のあり方こそ問題である。根本的なあり方が変わらない限り、同じような事件が何度も繰り返される。たとえば「通信傍受」の要件をもっと緩和し、現実に即した活用ができるようにしたい。また「おとり捜査」制度の導入も大きな効果を生むだろう。さらにアメリカなどでよく使われている「司法取引」も導入したい制度である(証人保護プログラムに懸念がないわけではないが・・・)。こういう制度が確立すれば、国家機密を狙うスパイ対策としても有効に機能する。新たな武器を警察に与えることによって、必ずいい結果が出せるはずである。犯人逮捕こそ最大の抑止である。警察を市民が信頼する最も大きな要件は「警察が必ず市民を守ってくれる」という安心感である。テレビドラマを観ながらそんな事を思った。


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2012・10・31 福岡県警幹部(藪正孝氏)・一問一答  西日本新聞記事より
Q 福岡県知事や北九州市長が通信傍受の要件緩和など新たな捜査手法の導入を求めている
与えられた武器で戦うのが現場の務めだ。・・・時代は変わったが、捜査手法は今までのまま。竹やりでB29と戦っているのと同じだ。
Q 刑事免責制度を導入すれば、事態は変わるか?
これなら実行犯から共犯者、上層部へ捜査が広がる。
Q 警察に対し組織のマイナスになる供述をすれば報復がある。そう簡単に自供するだろうか?
痛感している点だ。海外は保護対策が徹底されている。国内でも捜査に協力した保護対策者が名前を変えたり、組織を抜けて更生するための法的な援助制度が整備されたりすれば、協力者をより保護でき、事件解決の弾みになると思う。