映画「デンジャラス・ラン」を観て | 映画のページへ 随筆のページへ トップページへ File No.120911 |
「サブウェイ123」「アンストッパブル」に比べ、かなり体を絞り込み、精かんなデンゼル・ワシントンになっている。伝説の元CIA工作員で、最も危険な裏切り者として、10年前四大陸に指名手配された男トビン・フロストを演じるからには当然だろう。映画は、新人のマットと天才フロストの32時間にわたる逃亡劇が時間軸に沿って展開していく。フロストは、CIA最高のエリート工作員にして、CIA史上最悪の危険人物。デンゼル・ワシントンの強烈な存在感が光る。正体不明の敵の襲撃を受け、容赦のない銃撃戦で次々と射殺されていくCIA局員。市街地で激しいカーチェイスと銃の乱射が繰り広げられる。これはCGを一切使わず、すべて実写によるものだという。さらに、畳みかけるような音楽、手持ちカメラによる撮影が緊迫感を盛り上げる。 南アフリカ・ケープタウン。CIAの新人職員マット・ウェストン(ライアン・レイノルズ)は、隠れ家「セーフ・ハウス」の管理人として、退屈な日々を送っていた。一方、米国総領事館に、世界36か国に指名手配中の、伝説の工作員トビン・フロスト(デンゼル・ワシントン)が出頭した。フロストは尋問のために、セーフ・ハウスに連行され、「お前に何の権利もない」と容赦のない尋問が行われる。ところが、場所も状況も完全に把握していると思われる12人の重武装集団に襲撃される。危険が迫る中、人の心を操る天才・フロストは、マットを言葉巧みに操りセーフ・ハウスを脱出する。マットは新人ながら、スパイ技術では好成績を挙げていた優秀な局員である。執拗に追跡してくる武装集団を、何とか振り切った二人は、指示により次のセーフ・ハウスを目指す。 |
日本に現在スパイを取り締まる法律がない。スパイ天国と言われる所以である。出入国管理法や旅券法など、別件で逮捕しているのが実情である。加えて、取り締まりのための武器が、極めて限られている。数カ月前、中国大使館の一等書記官が、スパイ活動をしていたのではないかという事件があった。この時は、外国人登録法違反や公正証書不実記載などの容疑で、出頭を命じたが帰国してしまった。この書記官は、人民解放軍の諜報機関に所属していたこともあり、秘密工作をしていたのではないかとの疑いがあった。もともと大使館員は全員スパイだと言っても過言ではない。日本は、スパイを厳しく取り締まることが、重要な“国防”であるという自覚に欠ける。悪意をもって領海侵犯した犯人ですら、漁業法でしか取り締まれないという情けない国である。 「このファイルは、我々の世界を狭くする。古巣の連中に狙われる」。フロストのこのセリフが重要な意味を持つ。フロストはその情報を身体に埋め込む。「フロストの所在は極秘情報とする」。その極秘の情報が、武装集団に漏れていた。激しいバイオレンスの中、これはCIA内部の犯行ではないのかを思わせる。だとすれば内通者は誰か、誰の指示で襲撃したのか。「フロストの国外逃亡を何としても阻止しろ」。実はフロストは、自身が信ずる正義を貫き、祖国を裏切ったのではないか。国家の安全を優先することと、自分の信条に正直であることに整合性はあるのか。CIAという組織にあって、どうあることが正義なのか。次第に霧が晴れていく。そして、新しい優秀な工作員が育ち、世代が交代していく。 |
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映画「デンジャラス・ラン」 2012年/米/1時間55分 監督:ダニエル・エスピノーサ 出演:デンゼル・ワシントン 、 ライアン・レイノルズ |