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File No.110331

映画雑誌「SCREEN」2011年4月号で、SCREEN読者が選ぶ"ゴールデン・グランプリ"が発表されている。第1回の1951年から数えて今年は60回目となる。その永い歴史を見ると間違いなく私は、映画のオールドファンである。その時代、その時代、輝いていた数々のスターがいる。そして、今年のトップに輝いたのは、女優はV4の"アンジェリーナ・ジョリー"、男優はV8の"ジョニー・デップ"と、いづれも他を寄せ付けない圧倒的な人気である。その強力な2人が主演した映画が今回の「ツーリスト」だ。この二人に決まるまでにキャスティングは、二転三転したようだが、結局最高の組み合わせになった。そして、この二大スターが演じるに相応しい舞台として、ヴェネチアが用意された。映画「旅情」で、「場合によってはずっと居たいくらいよ」「ヴェネチアの魔力ですね」という会話がある。この時のキャサリン・ヘプバーンは、言ってみれば"ツーリスト"である。ヴェネチアに咲いた切ない恋を描いた「旅情」は、1955年度の2位にランキングされている。今回の映画「ツーリスト」は"恋"を“サスペンス”で味付けした、どこかなつかしさを感じさせる映画である。

パリの朝、美しいイギリス人女性エリーズ(アンジェリーナ・ジョリー)は、いつものカフェで朝食をとろうとしていた。そこに彼女の夫アレキサンダー・ピアースから手紙が届く。ピアースは2年前、マフィアのカネ23億ドルを盗み、マフィアから追われている。同時に、ロンドン警察も7憶ポンドもの税金滞納で国際指名手配をしていた。警察は、ピアースから必ずエリーズに接触があると、多額の費用をかけ監視を続けていた。ピアースからの指示は、リヨン駅8時22分発ベニス行きの特急列車に乗り、ピアースに体格の似た男と接触し、警察にその男をピアースと思わせるように工作するものだった。列車でエリーズは、アメリカからの旅行者フランク(ジョニー・デップ)に接触する。フランクは「"地に足の着いた普通の人間"というのが、僕の故郷では最高のほめ言葉」というように実直なウィスコンシンの数学教師だ。ヴェネチアに到着した二人は、最高級ホテル・ダニエリのスイートルームに泊まる。エリーズは、窓辺で突然フランクにキスをする。それは、監視されていることを意識し、フランクをピアースだと思わせるための行動だった。

列車の中でフランクが読んでいた小説は、"ベルリンで復讐"というようなスパイ小説だった。今、BSテレビで「CIA:ザ・カンパニー」というドラマが放映中である。3/28に第4話が終わったところだが、これが実に面白い。内容は1950年代エール大学を卒業した同期の親友3人が、CIAとKGB双方の任務に就き、彼らの工作活動や諜報活動を通して、ソ連崩壊までの冷戦時代を描いたスパイ・サスペンスである。第3話では、ジャック・マコーリフがハンガリーに潜入、革命軍と接触しアメリカの意向を伝える。「我が国の上層部は、蜂起の延期を望んでいる。1年から1年半だ。今、ソ連と戦争する訳にはいかない」。しかしハンガリー政府のAVH(ハンガリー国家保安局)による恐怖政治に、もはや民衆の革命の波は止められない。そんな中、ジャックは、AVHに拉致され、拷問を受ける。CIA内部に潜むKGBスパイによって、情報が筒抜けになっていた。外交特権なしで送りこんだCIAは、ジャック救出の公式なアプローチが出来ない。AVHとは交渉手段のないCIAだが、KGBとは局員の身柄に関する協定がある。無事帰還したジャックだが、第4話では反カストロのキューバ軍に潜入する。

銀幕のヒロインは、若さあふれる輝き、エレガントな輝き、知性からあふれ出る輝き、その時その時、常に輝いている。しかも、その一瞬の輝きを、映画に瞬間冷凍させるという特権を持っている。オードリー・ヘプバーンの「ローマの休日」(1954年)。半世紀以上の時が経っても、あの眩しいような輝きにいつでも逢える。アンジェリーナ・ジョリーは、この「ツーリスト」で、間違いなく"輝くような美しさ"を永久保存したと言える。その磨き抜かれた美しさ、立ち居振る舞い、それを最大限に引き出す華麗な衣装。もちろんヴェネチアの景色とカメラワークが強力にバックアップする。それは「トゥームレーダー」や「ソルト」では、表現しきれなかった輝きである。ネタバレになるので詳しくは書けないが、この映画は思わぬストーリー展開に何度も驚かされる。ジャブとボディで引き込まれ、最後は強力なアッパーでしてやられる。二人の恋につながる大どんでん返しが、何ともいい余韻を残してくれる。この映画に出会った彼女はもとより、雑誌「SCREEN」で投票をしたファンにとっても幸せなことであろう。

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ツーリスト 」
2011/03公開 /103分
監督: フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演: アンジェリーナ・ジョリー
ジョニー・デップ

今年のアカデミー賞の授賞式の様子を観た。司会のアン・ハサウェイがいい。特に、舞台にひとり立って、ミュージカルのように両手を大きく広げて歌う場面がある。そう思ってみると、顔立ちが舞台に映え、ミュージカルがよく似合う。「私はひとりぼっち。ヒュー・ジャックマンのやつが、・・・・この男よ、名前は言わないけれど、彼はニセの爪を使って、私の心に突き立てて去って行った。私はひとりぼっちよ」。歌も堂々たるものである。
ニコール・キッドマンが、主演女優賞にノミネートされていた。作曲賞ではプレゼンテーターも務めた。「初期の映画はサイレントでした。・・・・」と映画と音楽の歴史を初期から紹介。続いて生オーケストラによる映画音楽のメドレーが演奏された。主演女優賞は逃したものの、ニコールの存在感と美しさは相変わらずである。

追伸:2011/04/01
先日、映画「英国王のスピーチ」のページで次のようなことを書いたが、もう少し付け加えておこう。
私が「ローマの休日」の中で好きなシーンをひとつだけ挙げるとすれば、大使館へ帰ったアン王女が大使たちと話すシーンである。大使「私は国に対して義務がございます。王女様にもその義務が・・・」、アン王女「私に対して二度とその言葉を使わないで。王室と祖国に対する義務があるから戻ってきたのです。戻らないこともできました」と、さっきまでの恋する可愛い女性から、アン王女として、凛とした気品を取り戻すシーンがいい。
このシーンはこの後、その部屋で一人になったアン王女が、静かに窓に近づいて、ローマの街を見る。それはさっきまでの夢のような一日の思い出を断ち切り、それまでのわがままな王女から、真に国の象徴としての王女に生まれ変わった瞬間でもある。