映画「RED」を観て
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File No.110203
文字通り「若造は引っ込んでな」という映画である。「ダイ・ハード」のジョン・マクレーン同様、ブルース・ウィリスが知識と経験に裏打ちされた度胸と行動力で、ハイテクな若造を粉砕する。一瞬の迷い、たったひとつの判断ミスが、即ち"死"を意味するスパイの世界。引退したとはいえ、元々情報機関のすご腕工作員たちである。年を重ね磨かれてきたオヤジたちの熟練の技は、熾烈な世界を生き抜くための最終兵器である。ハイテクに頼る若者が、リタイヤする熟練の技を継承できていない。この映画はどこか現実の世界を、ヒーロー・ヒロインに投影しているところに共感するものがある。それぞれの個性を生かした絶妙のチームが編成され、そのストーリー展開はスピード感がある。加えて上品そのもののヘレン・ミレンが、クールにマシンガンをガンガン撃ちまくるというかっこ良さ、爽快さ。ブルース・ウィリスいわく「映画は人々を楽しませるためにある。日々の煩わしい問題を忘れることができる。スクリーンで繰り広げられる2時間の出来事に夢中になるからだよ」。これぞハリウッド映画の真髄である。
ブルース・ウィリス
ヘレン・ミレン
フランク・モーゼス(ブルース・ウィリス)は、CIAの中でもすご腕の工作員だった。今は引退し、ゴミを出したり、近所に合わせてクリスマスの飾り付けをしたりと、ひとり静かな生活を送っている。唯一の楽しみは、年金課に勤めるサラ(メアリー=ルイーズ・パーカー)に「小切手がまた届いてない」などと電話で話しをすることだった。顔も知らないサラを好きになったフランクは、来週カンザスシティに会いに行こうとしていた。ところが突然、武装集団に襲撃される。侵入した第1部隊は、あざやかに処理したが、外には本体が待ち構えている。フランクは床下に隠してあった武器を取り出し武装する。コマンド部隊は、外からは横一列になって、容赦なく銃弾を浴びせフランクの家は爆発崩壊する。しかし、こんなコマンドなどフランクにとって敵ではなかった。一気に片付け、カンザスシティへ向かう。フランクの電話は盗聴され、サラを好きだということはバレている。サラが危ない。何が起きているのか。調べていくと背後にCIAが絡んでいた。フランクは、かって超一流のエージェントだった仲間を訪ねてチームを組み反撃にでる。
リチャード・ドレイファス
アーネスト・ボーグナイン
今回の出演者で、なつかしい俳優が二人いる。ひとりはアーネスト・ボーグナイン。すでに90才を超えている。私の中で一番記憶に残っているのは「ポセイドン・アドベンチャー」(1973年・当時でも50代半ば)だ。悪役の似合う風貌であるが、今回はCIA本部地下の記録保管室の番人で、人の良さそうな役で出演している。一見して誰だか分らなかったが、まだまだ元気なようだ。もうひとりはリチャード・ドレイファスである。私の好きな俳優だが、こちらは逆に悪役で出演している。1970年代の大ヒット映画「アメリカン・グラフィティ(73年)」「ジョーズ(75年)」「未知との遭遇(77年)」など、コッポラやスピルバーグの映画に出演した。77年の「グッバイ・ガール」では、史上最年少のアカデミー主演男優賞に輝いている。この年は「サタデー・ナイト・フィーバー」の大ヒットで、ジョン・トラボルタが有力視されていたが、ドレイファスの演技力が評価された。その後、紆余曲折はあったが、95年の「陽のあたる教室」では、アカデミー主演男優賞にノミネートされた。まだ60才前半である。円熟した演技力で、もっともっと活躍してほしい俳優である。
画像左から
ジョン・マルコビッチ(マーヴィン・ボックス役)
モーガン・フリーマン(ジョー・マシスン役)
ブルース・ウィリス(フランク・モーゼス役)
メアリー=ルイーズ・パーカー(サラ・ロス役)
ヘレン・ミレン(ヴィクトリア役)
CIAは映画に頻繁に登場する。と言うより、私がそんな映画を好んで観に行っているということでもある。去年の「グリーン・ゾーン」では、国防総省情報局とCIAの対立を軸にストーリーが展開する。マット・デイモン演じるミラー上級准尉が、アメリカ内部の陰謀を暴いていく。マット・デイモンと言えば「ボーン・アイデンティティ」がある。CIAの優秀なエージェントだったジェイソン・ボーンがCIAの追跡をかわしながら真実を暴いていく。何か今回の映画に通じるものがある。もうひとつ「ソルト」がある。アンジェリーナ・ジョリー演じるイヴリン・ソルトはCIAロシア担当の優秀な分析官である。ソルトも二重スパイの疑いでCIAの仲間から追跡を受ける。さて、現実の世界のCIAであるが、9・11を防げなかったことでその存在が弱まり、現在合衆国国家情報長官の下に統括されている。格下げになり、ベテラン幹部が全部辞めさせられ、経験の浅い職員の組織になってしまった。今回の「RED」は、十分に機能しなくなったCIAへの痛烈な風刺とも読みとれるが、わたしの考えすぎだろうか。
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「RED」
R
etired=引退した
E
xtremely=超
D
angerous=危険人物
公開
:
2011年1月
監督
:
ロベルト・シュヴェンケ
出演
:
ブルース・ウィリス
モーガン・フリーマン
ジョン・マルコビッチ
ヘレン・ミレン
リチャード・ドレイファス
アーネスト・ボーグナイン