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File No.101126

昨日(25日)の国会では、北朝鮮の砲撃に対する日本政府の対応が、的確ではなかったと、野党が集中砲火を浴びせていた。報道をみると"なるほど"と納得する内容である。まず、首相が「北の砲撃」を知ったのが「報道」からだった。先日のメドベージェフ大統領の、国後島訪問についても、事前に「訪問する」という発表がされているにもかかわらず、訪問の事実を知ったのは、「報道」からだった。これは、日本政府に、情報収集能力、分析力、判断力がないということである。しかも今回首相は、砲撃の事実を知りながら、国会対策を優先させ、緊急事態における初動の70分間、官邸は空っぽだったという。オバマ大統領は、現地時間の早朝4時過ぎにも関わらず、即座に強い非難のメッセージを出している。日本は首相からのコメントはなく、仙谷長官がコメントを"棒読み"しただけである。まるで緊張感がない。仙谷長官にとっては「日本の主権」より「APEC」が大事であり、菅首相にとっては「北の砲撃」より「仙石長官を守る」ことが大事なのである。今の政府には、危機管理もなければ、危機意識もない。

先日の「尖閣ビデオ」問題では、一旦ネット上にアップさせると、エンドレスで拡散し続けるという事実を目の当たりにした。もっとも尖閣ビデオについては、当然公開すべき情報であったから、特に問題とは思っていない。しかし、警察内部のものと思われる「国際テロに関する内部文書」が流出した事件は深刻である。対外的な信用は失墜し、国の安全保障が根底から脅かされる問題である。アメリカでさえ、内部告発によって米軍の機密情報がネット上に流出した。米軍の告発者(上等兵)は「機密文書を入手するのは、簡単だった」と言っている。例えセキュリティシステム自体、高度なレベルにあったとしても、問題はその情報を取り扱う人物である。機密情報取り扱いを許可するには、思想・信条から生活態度にいたる全てを調べ上げ、信頼できる適格者を選ぶ。しかし、そうした人物であっても、人間は常に変化するものである。そこの監視が難しい。それなりの覚悟をもって情報を漏洩しようとする人物には、罰則強化などあまり意味をなさない。情報取扱者の管理においては、徹底した「性悪説」が常識である。

安全保障において「情報」が重要な鍵であることは、今も昔も変わらない。特に「専守防衛」の日本にとっては、独自の情報網による、瞬時の政治的決断が不可欠である。現在、日本は「情報衛星」を3基運用している。レーダー衛星2号機は、今年8月に故障したが、地上からの指令では復旧できず断念したようだ。稼働中の衛星は、いずれも光学衛星で、レーダー衛星はひとつも機能していない。今後レーダー衛星を相次いで打ち上げる予定であるから、光学衛星2基、レーダー衛星2基という本来の運用による自前の情報取得が待たれる。だが、情報というのは単なるインフォメーションであって、これを生かすも殺すも、この後の分析力、判断力にかかっている。これにはかなり熟練した能力が、必要のようだが、どうもエキスパートが育っていないという話を聞く。こちらもカウンター・インテリジェンス同様、システムと担当する人材にかかっている。ましていわんや日本は、自衛隊を指揮するトップが、日本の主権や安全保障に関わる重要情報を「報道」で知ったなどというレベルにある。

今、日本にはCIAやMI6といった、しっかりした情報機関がない。安倍首相時代に「日本版NSC」(国家安全保障会議)を作ろうとした。しかし、安倍首相退陣とともに立ち消えになってしまった。現在の日本の周辺事態をみれば、やはり日本版NSCを立ち上げる必要があるのではないか。「省益あって国なし」の官僚どもの上に位置する、力の強い組織が必要である。しかし、消費者庁でも経験したように、省庁を横断的に束ねるには相当の抵抗が予想される。どう考えても今の民主党では無理である。日本国としてのしっかりした方針や戦略があってはじめて、情報機関の情報も生きてくる。今の政権の逃げ腰外交では、どんな情報も無駄である。「船長を釈放すれば、たぶん中国は圧力をやめるだろう」「北方領土に来る来ると言っているが、たぶん来ないだろう」などと、希望的観測で安易な方に、安易な方にと流されている。相手国に何をされても、毅然として強いメッセージも出せず、柳腰外交などと訳の分からぬことを口走る。今回のような緊迫した事態への対応を見る限り、今の政府はインテリジェンス以前の問題である。

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「インテリジェンス」とは・・・・「現代用語の基礎知識」(自由国民社)より
一般的には「知性」「情報」という意味で用いられるが、軍事用語としては後者の意で用いられ、同じく「情報」と訳されるインフォメーションとは明確に区分される概念。インフォメーションは集めたままの生の情報やデータを指す。一方、インテリジェンスは分析・加工された情報を言う。情報活動では、多くの情報資料やデータを分析評価して、有益な情報を抽出・加工し、作戦の計画・立案・実行するために必要な知識を提供する。

2010/11/27 TV「ウェークアップ!ぷらす」での森本敏先生の見解
今朝のウェークアップでは最初のテーマとして「北朝鮮の砲撃」を取り上げた。ゲストとして森本敏先生が出席(東京・日本テレビスタジオから中継)された。
森本先生の発言の内容は次の通りでした。
「“報道で知った”という総理のお言葉に対し、記者の質問に応えて“まあ、当日は祭日だから”と言い訳しておられますけど、「国家の危機」というのは、祭日休日関係ないですから、基本的な危機管理の体制が充分でなかったと言われても仕方ない状態だと思う」
関係閣僚会合をやるという大仰なことをやって、今まで3回やっていますけど、会議の中身を聞いてみると内容がない。ただ顔をみんなで揃えて、いろいろ説明を受けてそれで終わり・・・危機管理というのはもっと清々と粛々としてやるというのが必要」
情報を集めるだけではなくて、その情報が軍事的にどういう意味を持っているか、ということを正しく分析して総理に報告するという姿勢が出来てないといけないんですが、昨日行われた関係閣僚会議で統幕から軍事的なブリーフィングを受けたという、何日も経ってからこういう状態なので、日本の危機管理というのを体制としてはもう少し見直す必要があるんではないかと思います
「“当日は祭日だから”と言い訳をしたというのは初めて聞いた。これは自衛隊の最高指揮官の発言とは思えない。そのへんのおじさんでも、もう少しましな言い訳をするぞ。

今年4月8日(木)、中国海軍のヘリが、海自護衛艦「すずなみ」に異常接近した事件。この件の
外相への報告は4日後の月曜日だった。この言い訳が「9日が金曜日、10、11日は土日ということで・・・」だった。

民主党には“反省”とか“改善”という言葉は全く無いらしい。皆さん、民主党の国家の危機管理は、サラリーマンと同じく、土日祝日は“お休み”らしいですよ。

2010・12・03 ウィキリークスによる外交公電の暴露
 米報道官は「米国だけでなく、同盟諸国や友好国の外交利益にも大きな影響が及ぶ可能性がある」と懸念を表明。刑事責任を追及すると宣言した。ところが、米憲法が表現の自由を保障していることと、サイト創設者が国外にいるため、立件の見通しは不透明で、スパイ罪適用も困難だという。
 一方、国防総省は情報管理システムを改善した。しかし、システムの手直しや、新しく導入した防止策だけでは限界がある。それは、専門家のこんな声に表わされている。
>「これは技術ではなく、個人の問題だ
>「機密情報へのアクセス権を与えた人間が誰であれ、不満分子となって悪事を働く可能性は残る