「糸島市」誕生 随筆のページへ

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File No.100107


2010年1月1日、前原市・志摩町・二丈町の対等合併により「糸島市」が誕生した。合併後の人口は10万808人となり、福岡県内7番目の規模になる。新市の将来像として「人も元気、まちも元気、新鮮都市いとしま」を謳い、その基本理念は「人と、自然と、文化を生かした協働のまちづくり」である。山や海に囲まれ、豊かな自然の恵みを享受する農林水産業。JA糸島の「伊都菜彩」は、年間約28億円余りを売り上げる全国でもトップクラスの産直市場である。福岡市に隣接しているところから「福岡都市圏の観光レクレーションの拠点」づくりにも積極的に取り組む。志摩・二見が浦の夕日や海岸線の美しさは感動的ですらある。特筆すべきは邪馬台国の時代、政治・外交の要所でもあった伊都国。古代の「伊都(いと)国」と「斯馬(しま)国」が、すなわち「糸島」である。弥生時代の多くの遺跡群、国宝となった平原遺跡の出土物など、日本の黎明期から続く輝かしい歴史がある。新市の持つ魅力は実に多彩である。こういった多くの魅力を持つ新市「糸島市」がスタートした。


合併の大きな目的のひとつは、厳しくなる「財政運営」への対応である。少子高齢化、人口減少はいずこも避けられない流れだ。それはすなわち、扶助費の増加と個人市民税の減少を意味する。個人市民税に頼っている現状では、財政の効率は当然落ちていく。合併による行財政健全化は、最も注目している事項である。過日発表された08年度の決算では、前原市の経常収支比率(財政の弾力性を示す)は95.6%と福岡県の平均93.8%より悪かった。この比率が悪いということは、硬直化を意味する。他の財政健全化指標である「実質公債比率(20.4%)」「将来負担比率(146.4%)」についても64市町村平均よりかなり悪い。しかし近年は、投資事業の抑制効果などにより改善方向にあるのが救いである。文字通り「コンクリートから人へ」である。新市の基本計画では、合併による経費の削減効果を10年間で204億円(人件費113億円、物件費27億円、補助費等64億円)としている。これに加えて、新産業や有力企業の誘致による法人市民税の増収が望まれるところである。


昔、織田裕二主演の映画でこんな会話があった。「(プロジェクトの)新メンバーは、古賀議長の派閥、人脈なんだ。議員も官僚も全員。親族は建設業・納入業者といった公共事業の甘い汁を吸う企業の関係者で固められている」。昔から、国会議員、地方議員、地方自治体やその関連企業がつながり、税金は、それを軸に優先的に配分されてきた。見返りは献金や選挙協力である。我々とは無縁の世界が構築されている。しかし、選挙になると有権者の耳に心地よい「美辞麗句」が並ぶ。あるテレビ番組で、市民が「選挙であんなにいいことばかり言ってるのに、どうして世の中がよくならないんでしょうね」と皮肉を込めて言っていた。昨今、「地域主権」が叫ばれているが、もしこんな状態であれば、なまじ財源を地方に移譲などしないほうがいい。地方分権は、既得権益者と激しく対立してねじ伏せるような人材がいて初めて意味がある。テレビ番組で、ある市民が「政治をバカにすると、政治家にバカにされる」とけだし名言を吐いていた。実にうまいことを言う。近々、糸島市の市長や市議会議員の選挙がある。我々は、本当に公僕として粉骨砕身働いてくれる人物を見極めねばならない。


新市の計画の中に「行政評価制度導入」というのがある。その説明には「行政の施策・事業について、費用対効果も含め、客観的にその有効性や効率性を評価する制度」と書いてある。我々市民が、望む重要な視点のひとつがまさに行財政健全化につながる「施策の有効性、効率性」である。民間会社では「プラン・ドウ・チェック」は常になされている。行政にあっては、住民サービスの問題からB/C(費用対効果)だけでは測れないものもあるが、この検証こそ最も充実させなければならない。民間会社は、いかに売上をあげ、経費を切り詰めるか、日夜血のにじむような努力をしている。たしか大阪府ではなかったかと思うが、購読している新聞を整理しだけで年間8000万円削減できたと言っていた。前原市の財政力指数は0.57で極端に悪いわけではないが、いいところは0.80というところもある。新市が目指すのは「経営感覚を持った持続可能なまちづくり」。導入する「行政評価制度」が本当に機能し、そのプロセスが我々の目に見える形で開示され、市民が納得する行政を「新・糸島市」に期待したい。

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糸島半島は、その輪郭が二頭の犬と一羽の鳥に見える。玄界灘側から見ると、右側(1)は阿形(あぎょう)、左側(2)は吽形(うんぎょう)の狛犬(こまいぬ)である。神社で神様を守るがごとく、糸島を外敵から守っている。守られている象徴が(3)の鳩である。まさにトリックアートであるが、糸島には何かがある。


福岡県内 市町村財政指標(08年度決算)
市町村名 実質公債費率 将来負担比率 経常収支比率
用語説明 一般会計や企業会計、一部事務組合を含め公債費償還の割合を示す。 第三セクターなどを含め、将来負担になる可能性がある負債の割合を示す。 歳入のうち、人件費や扶助費など経常的に必要な経費の割合で、財政の弾力性を示す。
前原市 20.4 146.4 95.6
二丈町 17.4 59.0 91.5
志摩町 18.8 120.2 93.1
64市町村計(単純平均) 12.7 62.2 93.8
単位は
市(町)債と基金の状況(広報いとしま2/15号より)
市町村名 市(町)債 残高 基金(=貯金)
前原市 210.3億円 前年度比12憶5693万円減少 26.6億円 前年度比1憶1387万円増加
二丈町 53.0億円 前年度比3憶 292万円減少 13.8億円 前年度比1憶1510万円減少
志摩町 54.4億円 前年度比2憶3769万円減少 8.7億円 前年度比 2850万円増加