映画
「007慰めの報酬」
を観て

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File No.090202

今回の映画のイントロは、前作「カジノ・ロワイヤル」から1時間後という設定である。前作「カジノ・ロワイヤル」の最後で確保したミスター・ホワイトを、アストンマーチンDBSのトランクに押し込め、敵のアルファロメオとカーチェイスを繰り広げる。激しい映像の切り替えで、圧倒的なスピード感を見せる。今回の映画は、追撃場面では終始一貫この激しい映像が展開される。車に加えボートや飛行機による追撃、マシンと化したようなボンド自身による追撃と文字通り陸・海・空あらゆるチェイスが用意されている。ボンドのこの激しさは、愛したヴェスパーに裏切られ、砂漠のごとく乾いてしまった心を表したものだろうか。それは、マティスの遺体をゴミ箱に捨てるシーンにも表れているように思う。そんなボンドを理解してくれるのは、CIAのフィリックスであり、MI-6の上司であるMである。Mは、任務の遂行にしては非情すぎるボンドを懸念しながらも、はっきり言う「私は彼を信頼している」。

一見、これまでの007とは異質に思える仕上がりではあるが、そこかしこにDNAは確かに受け継がれている。もちろんそのベースには当然のことだが、製作がマイケル・G・ウィルソンとバーバラ・ブロッコリーであることだ。ハリー・サルツマンとアルバート・ブロッコリーを受け継ぐ二人だが、特にバーバラについては、公私ともにDNAを受け継いでいる。映画のシーンの中では、MI-6の諜報員フィールズが、全身にオイルを塗られベッドで死んでいるシーンは、まぎれもなく「ゴールドフィンガー」のイメージだ。もちろんボンドカーは、アストン・マーチンで、拳銃もおなじみのワルサーPPKである。今回の映画は、「ドクター・ノー」より前の話ということを考えれば、拳銃はベレッタでもよかったのかもしれない。それと、あの銃身に向って撃つシーンは、今回は最後に登場する。冒頭、「えー、あのシーンがないのか〜?」と残念思ったが、実は前回の続きというストーリー展開から、あえて最後のシーンに持ってきたようだ。

冷戦時代では、諜報員の活動は実にわかりやすかったが、現在ではなかなか題材に苦労している。今回は「資源」をめぐり、クウォンタムの幹部グリーンが暗躍する。現実の世界でも、つい最近ロシアとウクライナの対立で、欧州への天然ガスをロシアは完全に止めてしまった。資源をコントロールできることは、何にも増して強力な武器になりうる昨今である。「燃料電池」といえば、自動車などにも搭載されようとしている次世代エネルギーである。映画では砂漠のホテルが「燃料電池」で賄われているという設定になっている。爆発によるすさまじい破壊とその現場から薄氷を踏む思いの脱出は、007では欠かすことが出来ないシーンだ。「燃料電池」が何によってエネルギーを作り出しているかが重要なポイントになる。さて「ロシアは石油を売らず、米・中は今ある石油を取り合っている」などというセリフからして、目的が資源の掌握ではあるが、グリーンが本当に握ろうとしている利権は何なのか。その資源もまた次世代では深刻になることが確実な資源である。

ボンドの中で、ヴェスパーへの想いと組織への復讐心、諜報員としての使命が交錯する。先にも述べたように、その苦悩の裏返しが乾いた心であり、全編を貫く非情な行動や、執拗に追い詰めていくあの激しさである。ダニエル・クレイグ自身がインタビューで「ノンストップで息つく間もない。次から次へと押し寄せてくる。エンドロールになってようやく一息つけるかもしれない」と言っていた。5週連続海外ナンバー1を記録したというから、このすざまじい怒涛のアクションこそ、現代の多くの人に受け入れられたということであろう。オールド・ファンの私としては、あのユーモアのある英国紳士ボンドがちとなつかしくもあるが、時代に遅れを取ってはなるまい。ヴェスパーを陥れた男を捕らえ、精神的にも区切りをつけたボンドは、名実ともにMに認められたMI-6真のスパイとなる。それこそ"慰めの報酬"であろう。そしてそして、最後に用意された銃身に向って撃ついつものシーンとともに、館内には007のテーマ曲が響き渡る。

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STORY
監督:マーク・フォスター
出演:
ダニエル・クレイグ 、オルガ・キュリレンコ
前作から一時間後。アストンマーチンのトランクに、確保したミスター・ホワイトを押し込みMのもとへ急ぐボンド。ホワイトを取り戻すべく襲ってくる敵との激しいカーチェースが繰り広げられる。敵を振り切り尋問に入ったが、諜報部内に裏切り者がいた。ボンドは、その裏切り者を激しく追跡し、殺してしまう。
手がかりを得たボンドは、NPO法人「グリーン・プラネット」の代表、ドミニク・グリーンを知る。ところが、このグリーンは、元ボリビアの将軍・メドラーノを将軍に返り咲かせるのと引き換えに、天然資源の利権を握ろうと画策していた。一方、このメドラーノが将軍時代、目の前で家族を惨殺された女性・カミーユは、復讐の鬼と化し、メドラーノに近づこうとしていた。