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FileNo.080812

先日、大分県の九重で義兄と会ったとき、風力発電所が近くにあるという話題になった。そう言われてよく見ると、山頂に11基のタワーが立っている。この付近は何度も通っているが、私も日見子もその存在を全く知らなかった。3年ほど前に完成したという。ブレードの実物が展示してあるというので義兄の案内で見に行った。間近で見る、長さ30m、重さ5tの巨大なブレードは実に迫力がある。ドン・キホーテが挑んでいった気持ちが分からなくもない。そこに書いてある説明では「鏡山風力発電」といい、発電能力は1基1.000kw(11基で11.000kw)となっていた。この巨大な風車が、意外にも木の葉が動く程度(毎秒2.5m)の風があれば発電するという。だが、これはビジネスであるから風力発電に適したそれなりの風が必要である。鏡山風力発電の場合は、事前の調査で毎秒6.1mの風が吹いているということで建設に至ったようだ。ところが頼りにしているのが「風が吹くまま気の向くまま」の「風」である。風力発電の一番の弱点は「安定」という点にある。

現代の天気予報は、衛星からの映像や、スーパーコンピュータでの計算など、一昔前とは格段に違ってきている。それでも個々の予報士の最終判断には微妙な差が出てくる。「発電能力は風速によって変わりますので、年間を通して安定して電気を送ることはできません。・・・・・自然に大きく左右されます」と書かれていた。「明日は明日の風が吹く」などとのんきなことは言ってはおれない。電力会社としては、頭の痛い話である。電力会社の一般への電力供給は「安定」が絶対条件なのは言うまでもない。先ごろ、九電グループの風力発電会社が、九州最大の風力発電所を建設した。一年を通して安定した風が吹くという鹿児島県長島町のその発電所でさえ、設備利用率は23%でしかないという。原子力発電の安定性とは比較にならない。不安定な部分は火力発電でその凸凹を補っているようだが、今はまだカバーできるくらいの規模だからいい。国は2010年までに300万kw(2006年度末実績の約2倍)まで拡大の方針だ。これでも世界から見れば、新エネルギーへの投資は大幅に遅れている。

卸電力の大手で「電源開発」という会社がある。この会社の筆頭株主であるイギリスの投資ファンドが今年、株式を20%取得したいと政府に申請したことで大きな問題になった。結局、政府は買い増しを中止するよう命令を出し、投資ファンドもこの命令に従ったので事なきをえた。政府が拒否した理由は「公の秩序の維持を妨げる恐れがある」というものだった。国益に関わるインフラへの投資では、今年の初めに「空港の外資規制」の問題もあった。政府が安全保障上の問題で、外資の株保有比率を議決権の3分の1未満に制限しようとしたものである。議論が紛糾して結局立ち消え状態だったが、政府は最近また規制のあり方に関する研究会を立ち上げたようだ。素人に詳しいことは分からないが、単純に考えれば、ファンドは一定の利益をあげ続けなければならない。“もの言う株主”で騒がれた“村上ファンド”などはいい例だろう。目的の為には手段を選ばない。空港外資規制ではいろいろな意見もあるようだが、やはり安全保障上重要と思われるものにはきちっとした規制が必要ではないか。

最近では風力発電への流れを後押しするような、新しい風力発電も現われている。その一つは青森県六ヶ所村に建設された「蓄電池」を備えた発電所である。風が強い時に充電しておいて、風が止まった時には蓄電池から供給するという。コストの問題はよく分からないが、電力会社としては大歓迎だろう。もう一つは、何ヶ月か前テレビで放映していた九大応用力学研究所の大屋教授が開発した「風レンズ風車」である。従来の羽根の周りに覆いをするだけだが、その覆いがあるだけで3倍近い出力が得られていた。効率がいいのでわずか2.5mの羽根で標準家庭の電力が賄えるという。政府の目標の中には、新エネによって「地産地消型の取り組みを推進し、地域におけるエネルギー自給率を上げる」とある。まさにぴったりはまりそうだ。「風」という地球だからこその要素で発電する風力発電は、循環によって「風」そのものをきれいにしていく。「風薫る」と表現されるような「さわやかな風」で発電をすることが究極のあり方と言える。

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外形図

展示されているブレード


追伸:平成20年9月6日 九州エネルギー館で行われた「科学を語る会」を聞きに行った。
 研究の最先端に携わっている大学教授や工学博士から、専門的な内容を、我々にも分かるように図表を使いながら話していただける。2008年度の統一テーマは「化石燃料からの脱却〜新エネルギー〜」で、今日(9月6日)はその第一回「海洋エネルギー利用の現状と展望」だった。
 今日の主な内容は「波力発電」と「海洋温度差発電」の仕組みや展望についてであった。はじめて耳にする「海洋温度差発電」だったが、ある程度理解することができた。
 原理は、太陽で温められた表層の温かい海水と、深海から汲み上げた冷たい海水の温度差を利用して発電する。当然赤道に近い方が表面の温度が高いので、温度差は大きくなるが、最低でも20度以上の温度差が必要だという。具体的には、封入したアンモニア(低沸騰媒体)を温かい海水で暖め蒸発させ、その蒸気でタービンを回し発電する。その蒸気は冷たい海水で冷やされ、またアンモニアに戻される。これを繰り返して発電するのである。発電効率の追求は今後の大きなテーマのようだが、エネルギー源が太陽であるから、化石燃料と違って無尽蔵と言っていい。 そのほかにも、「波力発電」では、世界や日本では、どこの波がパワーがあるか。などなど、なかなか楽しい講演会だった。(一般の人は500円必要だが、高校生以下は無料)
2009・01・09 西日本新聞
都会向きミニ風力発電・・・・福岡市が導入計画
新年度・九大と共同試験
 都市生活も地球に優しく・・・環境分野を重点政策に掲げる福岡市が、新年度に九州大と共同で市街地向けの風力発電の実用化試験を4始める。博多湾沿岸の私有地に同大学が開発した小型発電機二基を設置する。都市景観を損なわず、弱い風でも十分な発電能力が得られる点が特色だ。自然エネルギーの高度利用の観点から、一部の小学校など二十五施設で導入実績がある太陽光発電との併用も検討する。
 風力発電は、大型風車(千キロワット級)を用いて企業の事業化が活発になっており、長崎県平戸市など自治体も導入に乗り出している。九州大が開発した小型風車「風レンズ風車」は、風を受ける羽根を円形カバーで囲う構造。カバー内で起きる対流を利用して効率よく発電するため、強い風が吹く丘陵地に乏しい福岡市のような地形でも稼働が容易という。
 一般に羽根の長さが50メートル程度の大型風車に対し、風レンズ風車は約1メートルと極小。回転音も静かで、高さ15メートルの支柱の上で風見鶏のように風向に応じて首が動く。平均風速が5メートルほどあれば、一基で4人世帯の平均的な年間電力使用量3600キロワット時を賄える。設置費は1基約4百万円。
 設置場所の候補は、市西部水処理センター(西区小戸)と今津埋立場跡地(西区今津)。九州大応用力学研究所の大屋裕二教授(風工学)が市内各地の風の経路をコンピューター解析して、適地と判断した。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構は「市街地でも、風力と太陽光とともに身近に利用できるエネルギーだという認識が広がってほしい」と期待している。