この映画は、アメリカ大統領の警護にあたるシークレット・サービスとテロリストの激しい攻防を描いたものである。スペイン・サラマンカでは「国際テロ対策首脳会議」を前に、マヨール広場でサラマンカ市長とアシュトン米大統領の演説が行われようとしていた。大統領付きシークレット・サービスのトーマス・バーンズは1年前、大統領への狙撃を、身を挺して守り負傷した。今回の警護はこの記憶の克服をかけた復帰戦でもある。2日前には「敵を襲撃せよ」というテロリストのE-メールを傍受していた。空にはヘリが飛び、広場を囲む屋根には監視と狙撃手を配備し、戒厳体制を敷いている。テレビは全世界に向け、一部始終を中継している。テロリスト「聖戦旅団」にとっては、首脳会議を阻止し、彼らの戦いを世界に向けアピールする絶好のタイミングでもある。バーンズたちの威信をかけた戦いが始まる。ところが、広場で大統領の演説が始まってすぐ、大統領は狙撃され、さらに演壇の下に投げ込まれた爆弾によって、広場は吹き飛び瓦礫と化す。
映画はバーンズを含め、登場する8人それぞれが、その時間に何を見たか、どう行動したか、同じ時間軸で繰り返し描かれる。同じ場面が何度も出てくるが、新しい視点ごとに、新しい事実が明らかになっていく。この映画における“バンテージ・ポイント”とは“すべての視点”ということのようだ。なぜ、狙撃は成功したのか。どうやって、爆薬が持ち込まれたのか。「う〜ん、そういう事だったのか」と、観ていて頭の中の霧が次第に晴れていく。狙撃されたとばかり思っていた大統領は、実は替え玉だった。「レーガン以降、替え玉は毎回だ」。ユニークな演出に操つられる心地よさが新鮮だ。しかも、映画全体のスピード感がなんともいい。息つく暇もないとはこのこと、最後にバーンズがテロリストを追い詰めるカーチェイスもまた圧巻である。一方、テロリストたちの死をもって挑む戦いは、裏切りの連鎖である。目的達成のために次々と仲間を裏切り、殺し、殺されていく様は壮絶である。
去年から今年の初めにかけて「SP」(=Security Police)というテレビドラマが放映されていた。深夜番組ながら15%前後の高視聴率の番組だった。その評判を聞いて、私も途中から観たが実に面白かった。最終回は18.9%を記録したという。警視庁警備部・井上薫は、鋭く研ぎ澄まされた特殊能力を持っている。脳内の活性が非常に高く「何となく、いやな予感がする。胸の奥がザワつく」という通常では説明のつかない感性で、要人を警護する。SP候補の訓練生となって、要人警護の訓練を受けるシーンや、車に仕掛けられた爆弾の爆発を、危機一髪回避する場面などなど、どのシーンも印象深い。常に細心の注意をもって周りの状態を判断し記憶する。普通なら見落とすような小さな異常を察知したとき、その記憶したシーンと結びつき、テロ阻止へ動く。このドラマは、その人気を反映して映画化される。出演者もスタッフも同じで、公開は来年だそうだ。映画館の大きなスクリーンで、迫力ある「SP」が見られる。
日本では今年7月、北海道洞爺湖サミットが開かれるが、警察はこの対策に、かなり神経を尖らせている。そもそも開催地が洞爺湖に決まったのも、決め手となったのは警備面の有利さからだったようだ。映画では、テロリストがシークレット・サービスの行動を予測し、周到な計画のもとハイテクを駆使し翻弄する。武装勢力がどんな攻撃を仕掛けてくるのか、洞爺湖サミットの警備においても、想定外があってはならない。警備には自衛隊もあたる。AWACSによる24時間空中警戒やPAC3の配備、迎撃戦闘機のスクランブル態勢をとるなど万全を期す。これは国の威信をかけた警備である。映画ではエンディングに向け、テロリストが大統領を拉致し逃走するが、バーンズはシークレット・サービスとして、最後の最後まで自らの任務を遂行し、テロリストを追い詰め、国の威信を守る。バーンズの任務遂行における忠実かつ強固な意志に、アシュトン大統領の寄せる信頼は厚い。これこそ、シークレット・サービスの求められる姿である。