シドニーオリンピック開幕
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File−No.000916

20世紀の最後を飾るスポーツ最大の祭典が幕を開けた。個人資格の東ティモールを含め、200カ国と、約1万1千5百人の選手が参加。アトランタ大会の197カ国を上回る史上最多となった。五輪スタジアムは、オーストラリアのイメージを生かして茶色の大地を表現したという。国歌斉唱の後、少女が登場しビーチに寝そべって夢を見ているという設定で、深い海や先住民族アボリジニなどオーストラリアの歴史と文化を表現していく。特に先住民族「アボリジニ」は、神秘的な踊りでその独特な世界を見せ、彼らがつかさどる山火事などを1000人以上のアボリジニが表現した。厳しい自然の中で生活を営むアボリジニの歴史は四万年に及ぶという。先祖伝来の土地からの追放、移民の受け入れ先を欧米に限る白豪主義など、差別の対象となり、「先住民の自分たちがよそ者扱いされている」との思いがある。オリンピックは、スポーツで民族の壁を越えさせる。聖火リレーは、アボリジニの聖地であるエアーズロックから始まり、聖火の点火は、アボリジニのキャシー・フリーマン選手が選ばれた。開会式の総指揮を執った演出家のリック・バーチさんは、「豪州がいかに人種や文化が多様な国であるということ、そして未来に対して楽観的な国であるかを分かってもらいたい」と語る。

アトラクションが終わり、200カ国の入場行進が、ギリシャからスタートした。どの国が、どんな衣装で登場するか楽しみである。進行につれ私が選んだベスト国は、まず「ギリシャ」実にスマートであった。「フランス」は、やはりデザインではどこにも負けないぞというセンスの良さが際立つ。「イタリア」は、ベネトンのカラーイメージがなかなか良い。日本選手団の登場を待つうち、子供が「日本も、殻をやぶって着物をデザインしたらいい」といった。妻が「そうね、中森明菜の"デザイア"みたいなデザインならいいかもね…」。そう言えば、小人数の参加国で民族衣装で誇らしく堂々と行進する国も少なくなかった。そして、いよいよ日本選手団の登場となった。な、な、なんと、カラーマントを全員が羽織っているではないか。一瞬を息をのんだ。この演出は、実況担当のアナウンサーも知らなかったようだ。オーストラリアの自然をイメージし、行進全体で一枚の絵に見えるようにデザインしたという。殻を打ち破ろうとするスタッフの意気込みである。

行進においてもう一つ感動的なことがあった。韓国と北朝鮮が「KOREA」として文字通り手をつないで行進したのである。注目された統一旗は白地に青い色で朝鮮半島をかたどっていた。旗手が1つの旗を持ち合い、なびかせると、観客からは大きな拍手が起こった。サマランチ会長らも立ち上がって拍手した。選手たちも握り合った手を大きく上にあげ友好を強調した。オリンピックでは、国境を越え、夢を実現することに大きな意義がある。6月の南北首脳会談では韓国側が北朝鮮側に提案し、実現に注目が集まっていた。和解ムードを演出する政治的な狙いもあるが、大いに統一への意気込みをアピールすることは出来たようだ。

この開会式で世界に向けて表現した強い思いを胸に17日間にわたる熱い戦いが繰り広げられる。選手は国民の期待が大きいだけに、その精神的重圧は計り知れない。ベストを尽くして戦った結果がどんなであれ、その戦いに大きな拍手を送ろう。負けた選手ほど、暖かく迎えてあげたいものである。



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