“なつかしさ”について考える 随筆のページへ

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FileNo.080506

一昨日(5月4日)、ラジオ番組「サンデー・スイート・ショップ」で、吉永小百合さんのなつかしい曲「光る海」が流れていた。この曲の後で林田スマさんがこんなことを言っていた。「“青春こそは光る海、金色に光る海”この歌詞が、何か心に突き刺さりましたね。その時って分らないんですよね。すべて失ったあとに、あの時は輝いていたんだと思う訳です」。私もその曲を聴きながら、同じようなことを考えていた。なつかしい曲と言うのは、その曲の時代にタイムスリップさせてくれる。そして、一気に心の中になつかしさが広がる。私くらいの年齢になると、新しい記憶が少なくなった分、昔の記憶、特に青春時代の記憶の占める割合が多くなっている。好きなカラオケを歌わせれば、およその年齢が分かる。テレビの番組でも、特番でよく“なつメロ”をやっているが、おそらく安定した視聴率が得られるのだろう。そこで、頭の中の“記憶”のメカニズムを考えてみた。

まず20才までに急激に記憶が増える。これは、細胞が激しく増殖する時期で、細胞がしなやかで、エネルギーに満ち溢れている時代である。まさに“青春こそは光る海、金色に光る海”なのである。この時代に新たに作り出された脳の中の経路、すなわち新しい記憶は、しなやかでエネルギーに満ち溢れたグリア細胞(注1)によってしっかりグリップされる。そして、20代、30代と年を重ねるごとに、スパイン(注2)をグリップするグリア細胞の力は弱くなっていく。最初は“瞬間接着剤”のように強力にくっつける力を持っていたグリア細胞も、今の私の年齢で出来た新しい記憶は“貼ってはがせる”メモみたいに、粘着力が弱くなってしまっている。はがれ落ちるということは、すなわち忘れるということである。つまり、新しい記憶は忘れやすく、若い時の記憶はしっかり覚えている。そのうち、若い頃の記憶だけになってしまう。

私は「サンデー・スイート・ショップ」を、ドライブで聞くのに、テープに録音している。その他にも、夜11時25分からの「ゆうらく特等席」、日曜早朝3時からの「ミッド・ナイト・コンサート」なども録音して聞いている。なつかしい曲が、よく流されている。そこで、そのまま消してしまうのももったいない、ということでMDに気に入った曲だけダビングしている。ダビングしたMDの曲目をみると、実にいい80分のアルバムが出来上がっている。曲目紹介など、パーソナリティの声も少し入れているので、なおさら手作り感がある。BGMとしてなんとなく流すのもいいし、じっくりなつかしさを味わうのもいい。ちなみに、この2ヶ月ほどでつくったMD2枚の曲目は下記の通りである。シルビー・バルタンの「アイドルを探せ」、ミーナの「砂に消えた涙」、どの一つをとってもいい。デビー・レイノルズの「タミー」はじっくり聞きたい曲だ。

記憶とは脳に作り出された新しい経路、と言ってしまえばあまりにも味気ない。実際に、昔の曲を聞いたとき、心の中に去来するものは、もっと心を揺さぶる。記憶と言うのは、おそらく時間・空間を切り取って、その懐かしい曲と同じ箱の中に入っているのだろう。しかも、人間の深層心理の中で、いやなことや、忘れてしまいたいことは、本能的に消し去るか、あるいは真綿で包んで“心地良い記憶”に作り直す。あの時は、仕事を失敗してつらい思いをしたけれど、今では懐かしい思い出だ、などと言うことになる。なつかしい曲をきっかけに、その箱に入っていた記憶が、一気に心の中に広がる。そのインパクトの強さは、グリア細胞のグリップ力の強さに比例している。40代、50代の思い出に比べ、青春時代の思いでは、まるでビッグ・バン状態でよみがえる。そのインパクトの強さこそが、スマさんの言う“心に突き刺さる”ような深いものではないかと思う。


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(注1) グリア細胞・・・ 神経細胞とコミュニケーションをとり、神経細胞が安定した状態を保つなどの役目を持つ。グリア細胞が学習や記憶をコントロールしていると考えられている。
(注2) スパイン・・・・・ 神経細胞同士の接点にあたるシナプスが出す信号を受け取る側の突起。グリア細胞はこのスパインに絡み付いて記憶を強化する。これがはずれるということが忘れることになる
大雑把だが、イメージを描いてみた。少し誇張して象徴的に描いたので、納得いかない人もいるかもしれない。20才までの記憶は、しっかり保存され、それ以降の記憶は、特にエポックなことでもない限り、時間の経過とともに忘れ去られる。もちろん20才までの記憶もかなり忘れ去られるだろうが。平均寿命を迎えるあたりでは、ほぼ若い頃の記憶で占められる。ちょっと極端だが、だいたいそんなところだろう。

MD1 MD2
フランス・ギャル 夢見るシャンソン人形
ビートルズ ヘルプ
ボビー・ビントン ミスター・ロンリー
ビリー・ボーン 真珠貝の歌
ジリオラ・チンクエッティ ナポリは恋人
シルビー・バルタン アイドルを探せ
ペトゥウラ・クラーク 恋のダウンタウン
PPM 500マイルも離れて
ミーナ 砂に消えた涙
10 ウィリーと彼のジャイアンツ 心のときめき
11 ガス・バッカス 恋はすばやく
12 サイモン&ガーファンクル 明日に架ける橋
13 ジリオラ・チンクェッティ つばめのように
14 マージョリー・ノエル そよ風にのって
15 キングストン・トリオ トム・ドゥリー
16 アニマルズ 朝日のあたる家
17 クリフ・リチャード ラッキー・リップス
18 リトル・ペギーマーチ アイル・フォロー・ヒム
19 コニー・フランシス カラーに口紅
20 ウィルマ・ゴイク 花のささやき
21 ジョニー・シンバル ミスター・ベースマン
22 ナット・キング・コール ランブリンローズ
23 マーベレッツ プリーズ・ミスター・ポストマン
24 ポール・アンカ ロンリーボーイ
25 リッキー・ネルソン トラブリンマン
26 アルカイオラ 荒野の七人
27 ボビー・ソロ 君に涙とほほえみを
28 アンディー・ウィリアムス モア
ポール・アンカ あなたの肩にほほうめて
2 プラターズ オンリー・ユー
3 ジョニー・レイ 雨に歩けば
4 ハリー・ベラフォンテ バナナ・ボート
5 ナルシソ・イエペス 禁じられた遊び
6 パット・ブーン 砂に書いたラブレター
7 デビー・レイノルズ タミー
8 ドン・コーネル ママギター
9 ダイヤモンズ リトルダーリン
10 ザ・ピーナッツ 情熱の花
11 デル・シャノン 花咲く街角
12 スコット・マッケンジー 花のサンフランシスコ
13 チャック・ベリー ジョニー・ビー・グッド
14 サイモン&ガーファンクル スカボロフェアー
15 ジーン・ピットニー ルイジアナ・ママ
16 レイ・チャールズ 愛さずにはいられない
17 シェリー・フェブレー ジョニー・エンジェル
18 ヘレン・シャピロ 悲しき片思い
19 フォー・シーズンス シェリー
20 ジョン・レイトン 霧の中のジョニー
21 ブラザース・フォー 遥かなるアラモ
22 シーカーズ ジョージガール
23 ナット・キング・コール 八十日間世界一周
24 ケニーボール モスコーの夜は更けて
25 ヘンリー・マンシーニ 子象の行進
26 コニー・フランシス バケーション
27 オリビア・ニュートンジョン カントリー・ロード
28 吉永小百合 光る海