諸行無常
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FileNo.040501

左の書は母が昨年“かぞえの100才(満98才)”のとき書いたものである。ほとんど下書きすることもなく一気に書き上げたものだ。前章で“元気でかくしゃくとしておりました・・・・”と書いたが、“百聞は一見にしかず”その勢いと力強さが伝わってくる。元気であった時の母を偲ばせてくれる。最後に残してくれたのが「幸」というのもまた心に響く。母は骨折してからもその気力は変わらず、延命の治療をすることなく戦い続けて散った。あくまでも自分らしさを守り通したわけだ。自分の人格の尊厳を守ったという意味では母の死は「尊厳死」であったと言えよう。

近年、欧州ではこういった「死ぬ権利」といった問題が大きくクローズアップされている。フランスであった事件は、交通事故で、目も見えず口もきけない青年が、「死ぬ権利がほしい」と大統領に訴えたが、大統領からの回答は「私には死ぬ権利を与える権限がない」というものだった。思い余って生命維持装置を取り外すなどして死に至らしめた医師と母親が「殺人罪」に問われた。国全体で論議となった結果、刑法適用の例外として「安楽死容認」の可能性も出てきたという。延命治療は、肉体的苦痛に精神的苦痛をプラスするというケースをも作り出す。そういった議論も充分尽くされてのことだろうが、オランダは、国としてはじめて「安楽死」を合法とした。本人の意思や客観的な状況確認といった厳しい条件はあるものの、一定の条件を満たせば「安楽死」は罪とならない。

そういった問題を発生させる裏には、生命の維持・延命といった点で、最近のめざましい生命科学の進歩によるところが大きい。「生命の設計図・ヒトゲノム」の解析で医療も大きく変わりつつある。「ヒトゲノム」「ナノ医療」などという言葉が存在すること自体が、高度化した医療の現状をあらわしている。ヒト胚の研究では、すべてのヒトクローン作製を禁止するのか、治療目的の研究を許すのか、意見が分かれているようだ。つい先日の新聞では、理論的には女性の卵子だけから赤ちゃんが生まれると言うこれまでの常識を覆す研究成果が報道されていた。生命科学の発達は、生命の萌芽から脳死・安楽死といった終末まで、極限の世界を我々に突きつける。我々は、人間の尊厳、基本的人権を踏まえ「自己決定権」と向かい合う事になる

我々に死は一様に訪れる。どういう形で訪れるのかは知るよしも無いが、少なくとも「死」だけは貧富の差、身分の差に関係なく平等にやってくる。先日、自殺ほう助の疑いで逮捕されたという事件が報道されていた。持病を抱える奥さんから度々懇願されてのことだった。「死」に至るプロセスに違いはあっても、その“重さ”に違いはない。英国では首から下がマヒした43歳の女性が「死の権利を認めないのは“人権侵害”」として、欧州人権裁判所に提訴したという。つまり、安楽死を認めないのは非人道的扱いを禁じる「人権条約違反」という考えだそうだ。“生きている”ことと“生かされている”ことは全く違う。そこが重要な点だ。私としては、自分自身に生きる価値を見出せなくなった時点で「死ぬ権利」を認めてもらいたいと思う。それこそが“人間らしさ”ではなかろうか。
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平成17年3月19日 西日本新聞より

生命装置15年目撤去   米フロリダ州:植物状態女性

大統領巻き込み論議

【ニューヨーク18日共同】約十五年間にわたり植物状態が続いている米フロリダ州の女性テリ・シャイボさん(41)の担当医は十八日、テリさんの“命綱”となっている栄養補給装置の同日の取り外しを認めた州地裁の二月の決定に従い、装置を撤去した。このままの状態が続けば、テリさんは1〜2週間で死亡する。

 これに対し、宗教右派の後押しを受けた共和党主導の米連邦議会は十八日、テリさん延命のため、夫らに「召喚状」を発付して今月末の聴聞会出席を要請した。ブッシュ米大統領は同日、延命のための措置に賛成の意向を表明。米テレビも報道を繰り返すなど安楽死をめぐる論議一色の様相となった。

 テリさんは1990年に脳障害を起こし植物状態となった。本人が人工的な生命維持に反対していたとする夫のマイケルさんが安楽死を主張しているのに対し、テリさんの両親が治療継続を求め法廷闘争が続いていた。


平成17年3月28日 西日本新聞より

米国の「シャイボ訴訟」・・・尊厳死に政治介入

保守勢力が延命要求・・・司法は「死ぬ権利」譲らず

植物状態の女性、テリ・シャイボさん(41)の尊厳死をめぐる米フロリダ州の「シャイボ訴訟」は、中央政界を巻き込む政治と司法の対立に発展した。キリスト教右派など保守主義勢力がブッシュ大統領や連邦議会の応援を得て延命措置を迫るが、裁判所側は本人の「死ぬ権利」を譲らず、シャイボさんは栄養補給装置を外されて十日目を迎えた。人工中絶や死刑制度など命に対する考えが真っ二つに割れる米国社会で、メディアは事態を連日詳細に伝え、国民は行方を真剣に見守っている。

冷静な世論

 先例の無い大統領と議会による圧力に対し、裁判所は動じなかった。連邦地裁のホイットモア判事は「シャイボさんは人工的な延命を拒否する権利がある」と両親の訴えを退け、最高裁もこの判断を支持した。国民は政治と司法の対立を冷静に見たようだ。CBSテレビが21、22の両日実施した世論調査によると、66%が「延命措置をすべきでない」と裁判所の判断を支持、82%が「大統領と議会は介入すべきでない」と答え、個人の領域に対する尊重を求めた。
 メディアはおおむね司法の判断を評価。26日のワシントン・ポスト紙は「正しい判決」と題する社説で「今回の不幸な訴訟で唯一喜ばしいのは司法権が政治的なごまかしの道具に成り下がらなかったことだ」と、政治側の動きを非難した。


平成17年4月1日 西日本新聞より

尊厳死論議の米女性死亡

約15年にわたり植物状態が続き、尊厳死の是非をめぐり全米で論議となった米フロリダ州の女性テリ・シャイボさん(41)が31日午前、収容されていた同州ピネラスパークのホスピスで死亡した。延命を求めていたテリさんの両親の相談相手となっていた宗教関係者が明らかにした。栄養補給装置を18日取り外してから14日目だった。
テリさんの死亡により、尊厳死を「残酷」とする主張を保守派などが強めるのは必至で、尊厳死をめぐる論議に大きな影響を与えそうだ。ホスピス前に集まっていた約百人の市民らの中には、抱き合って涙を流したり、「殺人が合法化された」などと怒りのプラカードを掲げる人の姿が見られた。
テリさんをめぐっては、宗教右派が尊厳死阻止を求める運動を展開。ブッシュ大統領も延命を求める意向を示したほか、連邦議会が延命を目指す新法を成立させるなどしていたが、本人が過去に示した意向に基づき尊厳死させるべきだとするマイケルさんの主張を認める司法判断が続いていた。

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