映画「アース」を観て | 映画のページへ 随筆のページへ トップページへ FileNo.080125 |
これは地球を舞台にした壮大な命のドラマだ。制作に5年をかけ、撮影のべ日数は4500日、世界の200ヶ所以上で撮影されたという。超ハイスピードカメラを駆使した、感動のシーン、衝撃のシーンをふんだんに織り込んで、今まで見たこともない光景が展開される。また環境問題をテーマに「美しい地球を次世代へ」というメッセージ性の強い映画でもある。登場する多くの“命”が人類も含めて、“気候変動”により危機に瀕している。北極グマが獲物を探してさまようシーンから始まって、南極のザトウクジラまで、地球縦断の旅が始まる。広大なツンドラ、シベリアの針葉樹林タイガ、広葉樹林、赤道のジャングル、アフリカのカラハリ砂漠、そして南極へ。登場する数百万頭の動物とともに、地球そのものもダイナミックに描かれている。どうやって撮影したのか理解できないようなシーンの連続である。撮影されたぼう大な映像の中から、選りすぐられたシーンは、まさに命の惑星・地球そのものである。
“生命の維持”とは即ち“戦い”である。環境に適応する戦い、他の生物との闘い、強い種を残すための同じ仲間内での戦い。弱肉強食。喰うか喰われるかの壮絶な戦いが繰り広げられる。闘いに負ければ、それは“死”を意味する。トナカイの子供は、生まれたその日から群れと一緒に歩く。危険を感じた“セイウチ”や“象”は、子供を中に入れて親が外側をとり囲んでしっかり守る。生き延びる知恵は植物もまた同じである。種を保存するために、より高く伸びて太陽の光を浴び、より遠くへ種子や胞子を飛ばそうとする。人間の種の保存のメカニズムを、“オシベ”と“メシベ”で説明できることを考えても、地球上の生物の成り立ちは皆同じである。“ウニ”のDNAは70%が人間と同じだという。細胞は20億年にわたって、生き延びるための知恵を核の中に刻み続け、守り続けてきた。その記憶に基づいてすべての生物が行動しているのである。遺伝子レベルで考えるなら、菜食主義は、人間の勝手な感覚によるものだ。
地球温暖化で北極の氷が減り、足場を失う北極グマ。南極でも、氷の流出量が1.75倍になっているという。北極圏の永久凍土が溶け出し、氷河も異常な速さで溶けている。氷河湖の下流の人々は洪水の危険にさらされている。その一方では、水資源が枯渇し、10億の人が水不足で苦しんでいる。
“水の惑星・地球”に突きつけられた、深刻な水の問題である。この状態で、2050年には世界の人口が90億になる。そもそもの原因は、本来地球が持つリズムを、人間がぶち壊したことにある。自然が持つ再生能力をはるかに超えている。永い年月をかけて地球が蓄えてきた資源を、一瞬のうちに使い果たそうとしている。北極の氷が溶けたことで、人間は新しい争いを起こしている。アジアとヨーロッパを結ぶ新たな“北極航路”が可能になり、この航路をどこの国が管理するのかをめぐるかけ引き。更に、氷が溶け始めたことで、北極圏の資源開発が可能になり、この権利をめぐっても各国が鎬を削っている。その横では北極グマが生死をさまよっているのである。
生物が海から上陸した古生代以来、地球は何度も絶滅を経験してきた。しかし、その都度どこかで生命は生き延び、更に多くの生命を繁栄させてきた。ところが、この100年で環境の激変に対応しきれない多くの生物が絶滅している。その危険はホモ・サピエンスも例外ではない。高度な文化を持ったことが災いし、地球の歴史において初めて“自滅”という絶滅を記録することになる。ほんの一瞬を生きた人類は、それまで絶滅してきた数百万、数千万の生物の中の一つでしかなくなる。人類が滅亡すれば、地球はリセットされる。太陽はあと50億年輝き続ける。地球が持つ再生能力が機能し、また新たな生命が繁栄する。だが、そうなってはいかんという強いメッセージをこの映画は発信している。数日前の新聞によれば、日本の温暖化対策の進捗状況は、先進国の中で“最下位”だという。それも火力発電で使用する石炭の構成比が上がっている。この記事をみて“がっかりした”というのが正直な気持だ。「どげんかせんといかん」。
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映画「アース」 2007年/ドイツ・イギリス合作/98分 監督:アラステア・フォザーギル 音楽:ジョージ・フェントン×ベルリン・フィル コンダクター:渡辺謙 「これまでカメラに収められたことのない、地球上で最も美しいものを目にする、これが最後のチャンスである。」〜アラステア・フォザーギル監督〜 2008年1月公開 |
平成20年2月13日 | |
「アース」がドキュメンタリー映画・興行収入1位に | |
映画「アース」の興行収入が2月9日17.9億円となり、マイケル・ムーア監督の『華氏911』を抜いて、過去10年ではドキュメンタリー映画興行収入の1位になったそうです。 ドキュメンタリー映画部門での「興収10億円突破」と「観客動員100万人突破」の最速を記録しており、さらに興行収入1位という記録が追加されました。 |