Here We Go !(3) 随筆のページへ

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FileNo.050104

2004年も終わろうと言うのに、数日前まで「暖かいですね」が挨拶代わりだった。ところが昨日の天気予報では、今日は一転して“雪”になっていた。大晦日は大荒れの予報だ。気になっていた久英は、朝起きるとまず外を確かめた。不安は現実となっていた。隣の屋根には数センチの雪が積もっている。外に出ると、まだ“みぞれ”が降っている。久英は、雪に足元を取られそうになりながら、車に置き忘れていた帽子を取りに行った。今日は、日見子と四国にドライブの予定である。大通りは、車の排気熱で雪が溶けている。“走るのに支障はないかも知れない”などと希望的観測をしたのも束の間、テレビの交通情報では、北九州市方面の高速道路は規制されているという。
「どこで、どんな規制があっているか分からないな」
「支度でき次第すぐ出ましょう」
「そうだな、途中でちょっとオート用品の店に寄ってみようか」
まだ朝の8時すぎなので店は開いていないかもしれない、と思いながらも、とにかく寄ってみようと出かけた。大晦日ということもあってか、近くのオート用品店では、もう開店の準備をしていた。
「この車に合うチェーンはありますか」若い店員は、タイヤの型式を確認して
「これが合いますよ」
恐らく雪の予報で用意していたのだろう、箱づめのチェーンがうず高く積んである。
「この辺の道路では必要ないんですが、チェーンを付けたまま走ってもかまいませんか」
「あ〜、それは止めてください。チェーンが切れてしまいますよ」
う〜ん、これは困った。かつてチェーンなどさわった事もない久英に、付けたりはずしたり出来るはずもない。
「ね〜、慎重に行けるところまで行って、だめならそこで宿を探すし、それもだめなら帰ってくればいいじゃない。」
なんだかこういう時の日見子は、生き生きしている。
「よ〜し、ちょっと大変だけど、ゆっくり一般道を走るよ」
3号線を北九州市に向けて走る。遠くの山にも、道路沿線の木にも雪が降り積もっている。モノトーンの景色が、まるで水墨画のように見える。
カーラジオは地方局をつけっぱなしにしている。随時 流される交通情報を聞くためだ。大晦日らしく、今年一年の出来事を振り返る特番を組んでいる。

「漢字一文字で表すと今年は『災』だったよね」
「その最後が『インド洋の津波』というのも、まさに言い表しているわね」
「しかも、今まで暖かかったのに、大荒れの大晦日で締めくくると言うのも象徴的だね」
道路の沿線に立っている温度計は「2℃」を表示している。雲は重く垂れ込め、遠くの山は中腹まで雲に覆われている。車は小倉に入ってきた。何やらぱらぱら音がしたかと思ったら“あられ”である。ボンネットの上をポンポン跳ねまわっている。“あられ”から“雨”になり、“みぞれ”になり、天候は目まぐるしく変わる。
前のサニーには一家族らいしい4人が乗っている。ナンバーを見ると「広島」になっているから、旅行からの帰りだろうか。ひょっとしたら帰省かもしれない。本当なら高速を走って、昼頃には到着のはずだったろう。ラジオから再三、交通情報が流される。高速道の規制、列車の遅れなど、どうやら大晦日の交通は大混乱のようだ。

それでも、どうにか関門海峡まで来た。大きなつり橋が雨に煙っている。心配していた関門トンネルだが、意外にもスムースだった。わずか数分で通り抜け、山口に入って来た。
「山口放送に切り替えてみたら。山陽道は瀬戸内海だから意外に規制されてないかもよ」
「そうだな、一か八か一番近くのインターに行ってみようか」
高速道の緑の標識が見えてきた。「小月」インターが近くのようだ。
「お〜っとラッキー!通れそうだよ」
「一気に行きましょう。でも50キロ制限のようね」
高速道の中央と端には雪が積もっている。だが真ん中を走る分には何の支障もない。やはり瀬戸内海は温暖なのか、手のひらを返したように周りの景色が違う。ところが、安心するのはまだ早かった。道路情報では「河内インター」あたりで通行止めがあっているようだ。
「河内インターってどの付近だ?」
「ちょっと待ってね」と日見子は、さっき「美東パーキングエリア」に寄ったときに中国・四国の地図をちゃっかり手に入れたらしく、広げて見ている。瀬戸内しまなみ海道から四国に入る予定なので「尾道」か「福山西」で「瀬戸中央自動車道」に乗り換えないといけない。
「尾道のちょっと手前みたいだわね」
「残念〜!切腹〜!」
「尾道まで一般道を行ったとしても、40〜50キロくらいだから、大したことはないわよ」
予想はしていたが、結局河内インターの渋滞にはまってしまった。それも大渋滞で遅々として進まない。時間とメーターを見比べると10分でわずか1キロしか動いていない。
「しまったなー、こんなことなら前のインターで降りとくんだったな〜」
渋滞にはまって約30分。
「あれ?どうしたんだ?」急に車が走り始めた。
新しい情報が入って来た。たった今、まさにたった今、規制が解除になって動きだしたのだ。まるで“卑弥呼”が“呪術”を使って何かを解き放ったかのように、車は快適に走りだした。

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