Alto Sax

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file-No. 030815

子供が、わずか二日しかない盆休みだが、遠路帰ってきた。前々から言っていた「Alto Sax」を持ってきた。私が、永年吹きたいと思っていたSAXである。言っておくが、決して無理やり取り上げたのではない。今はフルート一筋で、SAXは吹いていないと言うので、せっかくならと持ってきてもらった。この Alto Sax は精度の高さでは定評のある「YAMAHA」の製品で、その中でも最高のモデルのようだ。普通なら、とても私に手の出るようなレベルではないが、嬉しいかぎりである。聞くところによれば、SAXは「これから始めてみたい楽器」ではナンバーワンだそうだ。吹いている姿のかっこよさに惹かれるということもあるだろう。

私が、SAXを吹きたいと思ったきっかけの曲がある。それは、シル・オースチン不朽の名盤「ダニー・ボーイ」である。昭和30年代後半のことだった。私が買ったのは“ドーナツ盤”と言われる45回転のシングルレコードだった。当時は、SAXは人気のある楽器で、テナーサックスでヒットした曲は「ハーレム・ノクターン」「黒い傷あとのブルース」など多かった。特に「ハーレム・ノクターン」では、“サム・テーラー”と“ジョージ・オールド”が人気を二分していた。しかし、「ダニーボーイ」では、シル・オースチンが群を抜いていた。ワイルドでかつ情感あふれる演奏は、黒人特有というよりシル・オースチンのすぐれた感性というべきだろう。テナーのあの迫力ある響きに及ぶべくもないが、私は当時、彼のアドリブを完全にコピーしてクラリネットで演奏していた。

昭和30年代は、ワンホーン・ソロの曲でヒットしたものが多かった。トランペット曲でニニ・ロッソ「夜空のトランペット」、ベルト・ケンプフェルト「星空のブルース」、ハリー・ジェイムスの「スリーピー・ラグーン」、アルトサックスではコレット・テンピアの「太陽はひとりぼっち」、クラリネット曲ではアッカー・ビルクの「白い渚のブルース」、ピーナッツ・ハッコーの「小さな花」などなど大ヒットした。テナーサックスは、上記ソロ以外にも、アメリカン・ポップスでフューチャリングされ効果的な使われ方をしていた。コニー・フランシスの「ヴァケーション」やリトル・エバの「ロコモーション」など軽快な曲調と相まってオールデイズの雰囲気を漂わせる要素の一つとなった。

さてさて、なにはともあれ、まずは首からストラップで吊り、雰囲気を味わってみた。クラリネットと違って“ずっしり”重い。この重さが、音の重厚さを予感させる。本格的には教則本を買ってチャレンジするが、とりあえず子供から、ちょっとだけ指南を仰いで、音の感触を確かめるべく吹いてみた。音の出し方は、クラリネットと大差はないので問題なさそうだ。ただし、運指は全然違っている。子供が聞いたところによれば、クラリネットからSAXへは、慣れないと、吹いているうちに頭の中が混乱するらしい。57才にして未知のものに挑戦するのであるから、相当の困難は覚悟せねばなるまい。昭和30年代の音楽環境で育った私であるから、当時の雰囲気は身体に染み付いているつもりだ。さて、シル・オースチンのナンバーで、お気に入りの「ダニー・ボーイ」と「サマー・タイム」を納得いく演奏が出来るようになるのだろうか。

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