マンボ,チャチャチャ,メレンゲ,ロックン・ロール,と次から次へと新しいリズムが採りあげられて話題をまいておりますが,この次は,ここで初めて紹介します“カリプソ”(Calypso)のリズムが盛んになるのではないかともつぱら評判です。
“カリプソ”というのは,西印度諸島小アンチル列島最南の英領島,トリニダッド島土民の民謡です。ジャマイカ島もこの諸島中の英植民地で,わづかの富豪たちが多数の黒人を使用して苛酷な労働を強いて生活している島です。この黒人の悲哀と憤慢を彼等は自己の作つた独特のバラード,カリプソに歌つているのです。御存知のようにこの地方はバナナの産地で,黒人達はバナナを船に積みこむ重労働を夜通しやるのである。その時に唄う歌で古くから唄われていたもので“Day O”という歌がこれです。この種の歌のもつ悲痛なしかも労働歌特有のリズミカルな味わいは,広く人々の共感をよび、多くの黒人歌手がとりあげている。この様な自然と環境の中に生れた民謡はメロディは単純で,平易であるにもかかわらず,生活そのものと密接に結びついたもので,吾々の魂を奥底から感動させずにはおきません。
唄っているハリー・ベラフォンテは生れはニューヨークだが少年時代を西インド諸島で暮したが,後アメリカに帰り俳優養成所に入つて演技と演出を勉強した。この時のクラスメートに故ジェームス・ディーンがいるとのことです。黒人劇団の端役で地方を回ったり黒人街でジャズを歌つてどん底の生活にあえいでいた。その後少年時代に覚えた西インド諸島の民謡を歌いはじめたところその「しわがれ声」で切々と歌う素朴な調べがたちまち注目されてビクターと契約。「ハリー・ベラフォンテ」(LP)は60万枚,つづく「カリプソ」もすでに30万枚を売り,LPでは目下人気絶項のプレスリーでも彼には追いつけないそうです。Fox映画「カルメン・ジョーンズ」でホセの役を演じたこともあるという経歴をもっております。彼は原曲よりもスラングを多少修正して、テンポもおとして、ドラムカンの底をもちいたシンバルや空カンの太鼓を伴奏にして唄っております。
バナナ・ボート
さらばジャマイカ
ハリー・ベラフォンテ