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私は、野球ファンである。と言うより「巨人軍」ファンである。しかし野球技術やプロ野球全般に詳しいわけではない。巨人軍選手の背番号を見てもどの選手なのか分からないし、シーズン中も勝った日だけ「スポーツニュース」を見るくらいである。しかし、まぎれもなく「巨人軍」のファンであり、私程度の野球ファンも世の中には多いのではなかろうか。日曜日の朝の徳光さんのテレビ番組では、江川氏の解説を大いに尊敬しつつも、徳光さんを応援している私である。
先日、「巨人軍」の宮崎キャンプを見に行ってきた。キャンプ見学の楽しみは、いつもテレビの画面でしか見られない選手がすぐそばにいるという楽しさと、公式戦とは違う選手の表情や動きを見ることが出来る楽しさがある。天候にも恵まれ、内野席のいい席に座ることもできて実にいい一日を妻とともに過ごした。そこで思い出すのが、2年前の「巨人軍」宮崎キャンプである。清原選手が「西武」から移籍して大フィーバーしたキャンプである。
その日は、かなり早く出かけたが、すでに内野席はいっぱいで仕方なく外野席で見物した。私の前には、中学生のいかにも可愛い女の子が二人、あこがれの選手の一挙手一投足を見逃すまいとフェンスにしがみつくようにして見入っていた。ライト側には松井選手のホームランボールが、飛び込んで来る。その女の子のそばにホームランボールが落ちた。近くにいたみんなが争うようにボールを取り合ったが、勝利の女神はその女の子にほほえんだ。女の子は、そのボールを両手で包み込むように大事に大事に握り締めていた。あこがれの選手の打ったホームランボールである。後ろから見ていても、その気持ちは十分伝わってきた。ひとごとながら「よかったネ」と声をかけてやりたい雰囲気であった。
ところが、このホームランボールは、グランドに返すのが決まりのようであった。グランドには、アルバイトの学生であろうか、適当な位置にいて、来たボールを処理していた。ホームランボールも返してもらって内野に返すのが仕事である。女の子の大事な大事なボールもまた例外ではなかった。ボールを返すように、グランドから声がかかった。しかし、女の子は、両手で握りしめ、下を向いたまま放そうとしない。グランドのアルバイトも再三声をかけてきた。声をかければかける程、下を向いていく女の子が痛々しかった。ところが何と言うことか、グランドのアルバイトから「泥棒!!」と言う声がかかった。ついに女の子はボールをグランドに返した。女の子の気持ちを思いやるに、やるせないないものがあった。
ボールを返した後もフェンスに張り付くようにしてあこがれの選手を目で追っている女の子が印象的であった。グランドのアルバイトは、自分の仕事を果たした訳であるから、言うべき事ではないかもしれないが、女の子の「心」に大きな「傷あと」を残したことが分かっているだろうか。少なくとも、 そのアルバイトも野球が好きで、かつ巨人が好きでアルバイトしていたのではなかろうか。女の子の様子から、察して「ボール一個」見逃す余裕はなかっただろうか。ファンあってのプロ野球であり、その一端を担っていると言う自覚を期待するのは無理な事であったろうか。また巨人軍は、キャンプにおけるホームランボールを(本当の意味でのホームランではないが・・・)ファンサービスの一環として位置付けてはどうだろうか。