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48年前の古い新聞記事
昭和35年(1960年)8月22日 西日本新聞
各駅停車/夢の超特急プラン
路線に文化財山ほど/土地買収でモタモタ
今年は東海道新幹線五ヵ年計画の二年目になるが、問題の用地買収が進まず、現在までやっと23%がすんだだけ。なかでも大きなカベは史跡、古墳、天然記念物などの文化財だ。国鉄は低姿勢で新幹線開発の“公共性”を訴え、買収に懸命だが、文部省文化財保護委員会や地元の反対も強く、このままでは来年中に終わる予定だった用地買収プランをさらに延期するほか、ルート変更も避けられないようだ。
 国鉄が鳴り物入りで34年度から着手した東海道新幹線は広軌約500km、4年後の東京オリンピックに必要な用地買収は500kmのうち116km(23%)がすんだだけで、沿線にある国鉄所有地66km(13%)を除くと残り318km(64%)が未買収。この未買収分のなかでも国鉄にとって頭がいたいのは国や県指定などの文化財だ。
 東京−大阪間には古代文化の跡が多く、国鉄の依頼で文化財保護委員会が2km幅にわたって調査した藤沢−名古屋間だけでも(1)最も重要なもの88ヶ所(2)比較的重要なもの245ヶ所(3)発掘の必要がないもの899ヶ所がある。国鉄と各県市町村の間で古墳の模型や発掘記録を作成することで買収の話し合いのついたところもあるが原型の変更によって文化財の価値が失われるところは最も難関。
 とくに今問題になっているのが国指定の「老蘇(おいそ)の森」=滋賀県蒲生郡老蘇村=と県指定の「松林山古墳」=静岡県磐田市=の二ヶ所。老蘇の森は約2700年前、神助により地裂を止めようとして植えたといわれる由来の森。現在約80アールの区域に樹齢数百年のマツ、スギ、シイなどが広がっており、国鉄の設定ルートではこの森の一部を横断する。また四世紀ごろのものと推定されている「松林山古墳」も現在の東海道線に沿って大きく斜断される。この設定ルートにたいして地元は「国鉄が地元に相談なく一方的に設定したものだ。郷土の貴重な文化財をこわされてはたまらない」と国鉄側の買収計画を強くはねつけている。
これに対し国鉄技術陣の言い分はこうだ。
(1) 新幹線は傾斜千分の十(千メートルにつき高さ十メートル)カーブ二千五百メートル(半径二千五百メートルでえがいたカーブ)の制約があり一ヶ所ルートを変更すればその前後にわたって広範囲に変えなければならない。最悪の場合は設計の白紙還元に近い事態も起こる。
(2) 現在の設定ルートは調査の結果技術的に見て最良のルートだ。結局ルートを変更すれば東京−大阪間を二時間で走るという所期のスピードも出せなくなる。
このため国鉄は文化財保護委員会や各県教育委員会を仲介に引き続き地元を説得するが、場合によっては用地買収期間をさらに一年延ばすか、多少ルートを変更する可能性もあり「新幹線開発か文化財か」をめぐって当分国鉄と地元の対立がくすぶりそうだ。