映画「アンストッパブル」を観て
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トニー・スコット監督とデンゼル・ワシントンが組んで、また素晴らしい映画ができた。2006年の「デジャヴ」、2009年の「サブウェイ123」に続いて、このコンビが作り上げた作品である。「託児所の若造が来るところじゃない」「老人ホームかと思った」。デンゼル・ワシントンの存在感と、クリス・パインの若さの組み合わせもいい。今回の映画は実際に、2001年アメリカのオハイオ州で起きた列車事故が基になっている。毒物の溶融フェノールと、大量のディーゼル燃料を積載した巨大貨物列車が、無人で暴走する。これを止めなければ、10万人の都市が壊滅する。巨大怪物への決死の戦いが始まる。ストーリーはシンプルなので、迫力ある映像に引きずり込まれていく。また、列車が舞台であるから、操車場、転車、連結、ポイントの切り替え、光る鉄路など、興味あるシーンがふんだんに出てくる。軌陸車(きりくしゃ)という軌道も道路も走れる車も出てくる。AC4400CW型機関車が、巨大な怪物と化し爆走するド迫力は、鉄道に興味のある人なら必見である。

ペンシルベニア州南部・ブリュースター。勤続28年のベテラン機関士フランク(デンゼル・ワシントン)は、72日前に90日後の解雇通知を受けていた。そこにやって来たのが、まだ4か月の新米車掌ウィル(クリス・パイン)。二人は、この日初めてコンビを組むことになった。一方、フラー操車場では、機関士の小さなミスが発生していた。「ポイントがD-16方向だ」。機関士は、機関車を下りて手動で切りかえようとする。だが下りるときに掛けたはずのエアブレーキは、ホースが繋がれていなかった。ダイナミックブレーキを利かせるため、エンジンはフルスロットルでフルパワーになっていた。機関士は、列車を追いかけるが、追いつかず倒れ込む。巨大機関車AWVRの777がフラー操車場から無人で走り始めた。人口密集地に向かって突っ走る39両、全長800mの巨大列車。「173の踏切を全て封鎖しろ」。このままでは、毒物の爆発で街は壊滅する。「脱線させろ」。株が3〜4割ダウンする。「止める前から列車を壊すようなことはできん」。だが万策尽き、会社は脱線を決定する。しかし、暴走列車を追っているフランクは長年の経験から、脱線策は失敗すると判断する。

オバマ大統領は「グリーンニューディール政策」のひとつとして、13の地域に高速鉄道網を計画している。事業費は約1兆円の大事業である。リーマンショック後の経済対策として、すでに予算配分も決められた。予算配分のなかでも大きいのがフロリダ、カリフォルニア、シカゴである。フロリダにはJR東海が、カリフォルニアとシカゴにはJR東日本が競争参加に動いている。カリフォルニアやシカゴ周辺に導入しようとしているのは、在来線と新線併用のため、JR東日本の技術が生かせる。去年、カリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事が、新幹線の視察で来日した時、新型車両E5系の特別車に試乗した。「走行は非常に静かで滑らか、乗り心地は快適だった」と感想を述べていた。日本のプロジェクトチームは、新幹線を車両だけでなく、運行管理や人材育成といったことまで含め、システム全体で売り込もうとしている。だが、映画の中でミスを犯した機関士を見れば、アメリカに日本の緻密で研ぎ澄まされたシステムが受け入れられるかどうか心配である。

この映画のクライマックスは、スタントンの大曲(急カーブ)を、暴走列車が通過できるかどうかである。ここは制限時速が24キロ、最大でも40キロまで減速しなければならない。もしここで脱線すると、積載している危険な貨物が、大曲の高架下の燃料タンク群に突っ込み、爆発炎上する。スタントンへ行かせてはならない。あらゆる手立てを講じる中で、いかにもアメリカといったシーンが随所に見られる。元海兵隊員がヘリで列車に降りようと試みるシーン、機関車の燃料放出バルブを射撃で燃料を抜こうとするシーンなどがそうである。そもそも巨大な貨物列車自体、日本にはない規格だ。脱線装置など、ものともせず粉砕し蹴散らして突き進む。"万事休す"最後の可能性は、フランクたちに託される。「解雇通知を受けているのに、会社のために命をかけるのか」「そうじゃない。住民のためだ」。鉄道マンの誇りをもって、命がけの危険に挑んでいくフランクとウィルの姿もまたアメリカ的であり、その様子はテレビで生中継されている。最後に貨物列車の上で、両手を高く突き上げるシーンは、まさにアメリカンヒーローである。

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「アンストッパブル」
2011年1月公開
監督: トニー・スコット
出演: デンゼル・ワシントン
クリス・パイン