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File No.160825

天気がいい日が続き、週末の天気予報は、どうやら雨模様である。ということで布団を干すことになった。布団干しスタンドを設置し、無事ふとん干し終了。何気なくフッと見上げると、な、な、何と、ハチが巣を作っているではないか。数匹が動き回っている。これは一大事、緊急事態である。マンションの管理員さんに報告するにも、具体的に知らせて、的確な対処をお願いしなければならない。デジカメを用意して、完全装備で再びそっとベランダへ。撮れた写真を印刷し、妻に見せると「スズメバチではないわね」という。スズメバチは、巣がマーブル模様みたいなのだそうだ。ひと安心はしたものの、早速管理員さんに報告。管理員さんから、居住者を危険にさらす事案なので緊急で手配をした旨の連絡が入った。ところで、干した布団は取り込まなければならない。再び完全装備でベランダへ。特に、布団にハチが潜り込んでいないか、細心の注意が必要である。そして翌朝、駆除の業者さんが来てくれた。やはりスズメバチではなく、アシナガバチということだった。

スズメバチなら攻撃性が強く、そこにいるだけで激しく攻撃してくるという。とはいえ、スズメバチから派生したアシナガバチなので、危険であることに変わりはない。業者さんは、スズメバチ用に完全な装備も、持参されていた。しかし、アシナガバチとみるや、付けたのは手袋だけだった。「こんな人間の手が届くような低い所によく巣を作ったもんだ。バカだな」。殺虫剤らしきエアゾールを、勢いよく数秒吹きつけただけで、ハチは死滅。あとは巣を落とし、落ちているハチを回収して一見落着である。あっという間だった。あとは、またハチが巣を作らないように、ベランダ中に殺虫剤を吹き付けてくれた。このところの猛暑続きで、ハチも活動が鈍かったようだが、ここ数日、夜少し気温が下がって活動を開始、ハチもあせっているらしい。業者さんの話では、アシナガバチもそうだが、ミツバチなど弱いハチは、スズメバチなどの攻撃の対象になっているという。一つのハチ社会が一気に食われ死滅するということもあるらしい。

ハチの巣は、正六角形をしている。この構造は空間をすき間なく埋め、少ない材料で最も強い構造だという。この構造を「ハニカム」と言う。強度を保って材料を減らせるため、建築や航空機など広く応用されている。こういう生物から学ぶ技術を「バイオミメティクス」という。よく知られた例では、蚊の針の形状にヒントを得た痛くない注射針、あるいはマジックテープ(面ファスナー)、ハスの葉から開発された撥水性のよい外装塗料など数多い。以前、新幹線開発のドキュメンタリー番組で、騒音問題に取り組んでいるのを観たことがある。パンタグラフを支える支柱から発生する騒音がある。ここに採用されたのがフクロウの羽根にある形状だった。この模様が空気を逃がし、騒音を抑えた。生物の持つ形状は進化の過程で、生き延びるために勝ち取ったものである。それは、ハチやハスが考えたのではなく、それぞれの細胞が考えた作品である。細胞レベルでは、人間も他の生物と変わりはないとはいえ、生物から学ぶ能力を作り上げた人間の細胞は、やはり優秀だったと言える。

業者さんの話によれば、温暖化による生物の分布が変わってきているという。南方の生物が北上してきている。福岡市の天神には、巨大なゴキブリが生息しているらしい。あと数年もすれば福岡でも巨大な蛾が飛び回るかもしれないという。外来種問題というのもある。日本の在来種が、外来種に駆逐され、生態系が壊される問題である。個人が輸入して、飼いきれなくなると野生に放つケースも多いという。日本のミツバチが外来種にやられて、少なくなっている。このミツバチに見られるように、なぜか日本の生物はおとなしくて弱い。豊な自然に育まれ、穏やかな生態系を保ってきたということだろうか。そういうことなら、勤勉でまじめな日本人も同じということになる。我が家に巣をつくったアシナガバチは、人に恐怖を与え、生命の危険もあるがゆえに死滅した。しかし、害虫を食べてくれる益虫の一面もある。自然界がバランスを保つために、それぞれの生物が役割を受け持ち、それを果たしてきたことを忘れてはなるまい。


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