天皇陛下 生前退位のご意向 随筆のページへ

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File No.160808

今日(8月8日)天皇陛下が、ビデオメッセージで、国民に直接今のお気持ちを表された。その中で陛下は『次第に進む身体の衰えを考慮するとき、これまでのように全身全霊をもって象徴としての務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じています』と話された。「全身全霊をもって」というお言葉に、これまで象徴天皇として、いかに真剣に取り組んでこられたかが表れている。だからこそ、そのお考えの根底に「憲法に定められた象徴としての務めを十分果たせるものが天皇の位にあるべき」という強い思いをお持ちになっておられる。天皇は政治的機能を持たない象徴の立場にあるため、生前退位という直接的なお言葉はなかったが、そのお気持ちは十分伝わるものであった。先月から天皇陛下の「生前退位」について大きく報道がなされてきた。しかし、これまでは陛下の思いを推し量ってのことだった。今回、直々にご意向が示されたことにより、お気持ちに応えるにはどうあるべきかを政府、国民は慎重に検討しなければならない。

陛下のご負担軽減は、これまでも検討されてきた。しかし、公的な行事の場合、公平の原則を踏まえると、難しい面があるという。陛下は「今のところしばらくはこのままでいきたい」と、ご公務を削減するお考えはない。しかし2度の手術を乗り越えられた陛下をテレビなどで拝見するにつけ、いまのところ健康であられるとしても、国民だれもが気遣っているはずだ。安倍首相は、陛下直々のお気持ちを受け「私としては天皇陛下が国民に向けてご発信されたということを重く受け止めております。天皇陛下のご公務のあり方などについては、天皇陛下のご年齢や、ご公務の負担の現状を鑑みる時、天皇陛下のご心労に思いを致し、どのようなことができるか、しっかり考えていかなければいけないと思っています」と話した。政府は今後、皇室典範の改正に向け、有識者会議などを設置し検討していくことになる。しかし陛下はお言葉の中で「摂政」については否定的な見解だった。検討はあくまでも「生前退位」を前提にしたものになるはずだ。

しかし百地章教授は、皇室典範にある摂政制度で対応することが、一番穏当な解決法ではないかと書かれている。教授は「天皇は日本国の象徴であり、国民統合の象徴だ。先帝と新帝が同時に存在すれば、国民の精神的統合の上で問題が起こり、混乱が発生しないかも懸念される」という。「一時的ムードや国民感情だけで、皇室制度を左右させてはならない」とし、終身制が好ましいとの意見である。生前退位には、どういう場合に退位を認めるのかなど、難しい問題があるようだ。過去には生前退位が政治的に利用されたことがあるという。天皇の自発的意思によらない強制退位が起きる恐れがあるのだ。そのため明治時代に皇室典範を終身制度に規定したという。天皇が生前退位を望まれた場合においても、その真意を確認することは難しい。また、生前退位を"誰が"認めるかという問題もあるという。ただ、それについては、皇室会議のような機関に諮れば、手続きとして透明性も確保でき、強制的な退位を避けることができるという意見もある。

陛下は『これからも皇室が、どのようなときにも、国民とともにあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが、常に途切れることなく、安定的に続けていくことを念じ、ここに私の気持ちをお話しました。国民の理解を得られることを切に願っています』とお言葉を結ばれた。陛下はご自身のことだけではなく、皇室の将来を見据えて、その思いを述べられている。現在の皇位継承を見るに、10数年先にはお若い皇族は悠仁さまだけということになりかねない。安定的な皇位制度を考えるなら、女性天皇や女系天皇を検討するべきである。以前、女性宮家創設が問題になった時、私は次のように書いた。「今の規定をあまりに厳格に守るがゆえに皇統が途絶えては、本末転倒である。現状を見るに、今言われる男系維持方策だけで安定的な皇位継承が確保されるとは到底思えない。やはり、皇室の将来を見据えれば、男系男子の維持に加え、最後の砦として女性・女系天皇を認めておくことも必要かと思う」。今回の生前退位の検討を機会に、ぜひ、皇室の将来を見据えた皇室典範の改正を期待したい。


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2016/09/12 生前退位、特措法で
政府は、天皇陛下の生前退位について、現天皇陛下一代限り認める特別措置法を検討する方針である。これは恒久的な退位制度や「女性宮家」創設など、抜本的な改正には議論に時間を要するためである。陛下の「2年後には、平成30年を迎えます」とのお言葉は、平成30年の退位のご意向ではないかと推測される。陛下のご意向に添うには、平成29年までに法整備を終える必要がある。そこで一代限りの特別措置法を制定し、その後に皇室典範の抜本的改正を議論する「2段階論」が浮上した。政府は来年度の通常国会での法案提出を視野に検討に入る。