グ・ラ・メ!
〜総理の料理番〜
随筆のページへ

トップページへ

File No.160806

7月から始まったテレビドラマ「グ・ラ・メ!〜総理の料理番〜」が面白い。昨日(8月5日)第3話が放映された。ドラマは、総理大臣から直接任命され、70年ぶりに復活した“官邸料理人”の話である。日本の権力の中枢である総理官邸には、政治家はもちろん、世界から国賓クラスが招かれる。「阿藤総理は、料理人に助けられるような人ではない」とはいえ、総理は会談における食の役割を重要視している。“食”による新しいもてなしの場も、政策の一環と位置づけたのである。この官邸料理人・一木くるみ役を剛力彩芽が演じている。激しい権力闘争、仁義なき戦いの政界の裏側を舞台に、彼女の清潔感、さわやかさが輝いている。剛力彩芽をはじめキャスティングが実にいい。超然とした総理大臣役を演じる小日向文世は奥深さを感じさせる。総理の懐刀・総理大臣を生かすも殺すも秘書官次第という表現通り、すべてを把握し、総理大臣をサポートする総理秘書官の滝藤賢一がまさにはまり役といった感じである。

阿藤総理は、総理就任の公約が、特殊法人の廃止をはじめとする行政改革だった。しかし、抵抗勢力に阻まれ、いまだ目に見える成果はなく、アメリカのワシントンビュー紙からは「さめたスープ」と酷評されている。求心力の低下した総理を引きずり降ろそうとする勢力がある。第1話では、党の最大派閥・梶原派を率いる前総理・梶原との会食が最大の山場となる。官邸料理人には「総理を辞めさせない料理」が期待される。第2話では、世界に投資する巨大企業・ネプチューン・コーポレーションの会長を官邸に招く。この企業が日本を撤退すれば、10万人の雇用が失われ、その家族が路頭に迷うことになる。ライバルである官邸食堂総料理長の清沢(高橋一生)と競うことになるが、自信満々の清沢のフランス料理は、「この料理はよくできたものまね」と一蹴される。だが一木くるみの出した料理には「日本のパートナーと末長くお付き合いできそうです」と心を動かされる。第3話でも同じだが、このドラマは「人の心を動かす料理」がテーマである。

今月3日に第三次安倍改造内閣が誕生した。その中で言えば、私としては、高市早苗総務大臣、稲田朋美防衛大臣の政治信条に共感している。しかし、稲田氏も、防衛大臣ともなれば、いろいろ配慮することも出てくるだろう。二階幹事長就任も話題だった。報道を見ると、これまで私が持っていた二階氏のイメージとかなり違っている。安倍首相は二階氏についてこう言っていた。「百戦錬磨。自民党において最も政治的技術を持った方だろうと思っています」。報道でも、これを裏付ける記事が多く見られた。たとえば「“剛腕”とも評される大ベテラン幹事長の立場から安倍首相を支えていく」「与党内ににらみがきき、野党にも人脈を持つ」などである。ドラマ「グ・ラ・メ」では、派閥の領袖が、総理の生殺与奪を握っているように描かれている。これが政界の実態なのだろう。阿藤総理が、立ちあがって「よろしくお願いします」と、深々とお辞儀をする。おそらく二階氏も派閥を率いてかなりの力があるのだろう。報道にあった「二階さんが発言すれば党内は静かになる」ということからも容易に推測できる。

清沢料理長の料理は、どこにでもある料理で、独創性がなく、普通においしいだけで、心を動かされない。心を動かす料理とはどんな料理なのか。一木くるみは、料理するにあたって、会食に招かれる人物を徹底的に調べる。どういう立場の人物か、どういう生い立ちか、どういう経歴か、どういう考えをもって会食に臨むのか、前もってすべてを調べ尽くす。そして阿藤総理はこの会談で、どういう成果を期待しているのか。そうした前提をベースに、料理にどのようなメッセージを込めればよいかを考える。彼女の料理に込めたメッセージが、招かれた人の、心の奥深くに沈む繊細な心情を揺さぶる。琴線に触れる料理は、決してよくできたフランス料理ではない。一瞬、怒りを買うような料理である。だがそれこそが心を揺さぶるきっかけとなる。そこに込められたメッセージが、心のひだを刺激し、心を動かすのである。実に面白いドラマである。エンディングに流れる剛力彩芽のダンスもまた楽しみだ。


随筆のページへ トップページへ