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File No.160612

志摩歴史資料館
今、志摩歴史資料館(糸島市志摩)で『いとしま名所遊覧〜懐かしの昭和糸島旅』(2016/04/23〜07/03)という企画展が開かれている。100年前の人たちが、どんな糸島を、どんな風に楽しんだのか。明治の終わりから昭和初期にかけて、糸島にも鉄道が敷設された。企画展を観ると、路線が次々と延伸され、当時のエネルギーの高さが伺える。鉄道という文明の到来によって、人々の移動や物流システムが劇的に変わっていく。それは世界のどこでも同じような動きをみせる。フランスの印象派・モネの「サン=ラザール駅」に代表されるように、鉄道や駅舎は当時の近代科学の象徴でもあった。糸島を訪れた当時の人々も、鉄道そのものを楽しみ、その鉄道で名所旧跡、風光明媚な景色を楽しんだのだ。それは大正から昭和初期に描かれた「鉄道沿線名所遊覧図」に見て取れる。鉄道が人々の生活に潤いをもたらし、それがまた地域の経済に潤しをもたらしていく。時代の要求に応え、また時代背景を映しながら発達していった鉄道とともに、100年前の糸島に思いを馳せた。
糸島に初めて鉄道が敷設されたのは、明治43年(1910)、約100年前のことである。「北筑軌道」と呼ばれ、まず<前原−今宿>間が開通、続いて<(西)は加布里−(東)は今川橋>まで延伸される。しかし、北筑軌道という会社が存在したのはわずか1年。「博多電気軌道」と合併する。この会社は、大正期に入り大正元年(1912)には「九州水力電気」に吸収合併される。大正8年(1919)に「北九州鉄道」(本社・唐津)が設立され、路線は急速に拡大。大正15年(1926)には<東唐津−博多>間が結ばれる。大正11年(1922)には<姪浜−今川橋>間が路面電車化され、のちに西日本鉄道へ譲渡される。昭和に入り、昭和16年(1941)年<伊万里−博多>間は国有化され、「国鉄・筑肥線」となる。今に至る筑肥線の誕生である。展示のキャプションにはこう書いてあった。『現在も路線の大部分は、JR筑肥線として継承され、糸島と福岡方面、唐津方面をつなぐ重要な交通手段の一つであり続けています』。国有化されるまでの30年間をみると、民間資本による活発な鉄道事業の様子が伺われる。
昭和初期に描かれた鉄道沿線の名所案内図絵が展示してある。まずは昭和2年の「北九州鉄道沿線名所遊覧図」である。キャプションにはこう書かれている。『吉田初三郎が描いた鳥瞰図に路線と史跡名称を記し、観光社から発行された図絵です。左右が大きくデフォルメされた糸島半島や雷山をはじめとする迫力満点の山々が描かれています』。筑紫富士(可也山)、芥屋の大門、箱島などがカラフルに魅力的に描かれている。特に箱島は、料亭などがあり筑紫富士を望む風光明媚な景勝地として有名だったようだ。ちなみにここを訪れた著名人として炭鉱王・伊藤伝右衛門と柳原白蓮などの名前が見える。この名所遊覧図の裏面には、外国人観光客向けに英文案内も記載されているというから、観光客誘致の積極的な営業姿勢が見て取れる。次の名所案内図絵は、昭和9年の「北九州鉄道沿線名所案内」である。ここには路線に「糸島中学前」や「深江海岸」といった駅が追加されている。昭和9年にして、新しい駅をつくるほど、通学に列車を利用し、多くの人が列車で海水浴に出かけて楽しんでいた。


昭和11年に発行された「北九州鉄道沿線名所案内」も、時代背景を映している。裏面に、伊万里、佐世保間の延伸を予定しており、その結果、門司と軍港・佐世保が一直線に結ばれることを誇る文章が記されているという。この頃から次第に鉄道が、観光客から軍事輸送へと変わっていく。展示品の中に「糸島郡名所絵葉書」というのがあった。糸島郡町村長会が発売したもののようである。当然モノクロの写真だが「芥屋の大門」「箱島」「元寇防塁」など5枚が展示してあった。明治末から昭和初期、鉄道の開通に伴い、名所遊覧図、名所絵葉書など「観光・糸島」を大いに売り出している。100年前から糸島は魅力的な地であったのは間違いない。煙を吐きながら力強く走る鉄道が、距離と時間の感覚を一変させ、人々は飛ぶように過ぎていく車窓の景色に魅せられた。おそらくそれまで経験のなかった驚きと興奮だったに違いない。初めて新幹線が時速200kmを示した時、車内でわき起こった拍手に近いものがあったかもしれない。こうして近代化の象徴としての北筑軌道は、日常生活に溶け込んでゆき、また日常生活とは異なる風光明媚な糸島の風景を提供したのである。
現在の箱島
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糸島市立 志摩歴史資料館(パンフレットより)
すべては海から始まった
    玄界灘を通じた大陸との交流史

 志摩歴史資料館は、糸島半島の北部、志摩地域から出土した考古資料を中心に展示公開・収蔵・研究を行う施設です。
 志摩地域は玄界灘に突き出た半島部にあたり、古来から中国大陸や朝鮮半島との交易をはじめ、「海」を媒体とした他地域との交流を活発に行なってきた地域です。
  この地域からの遺跡からは「海」に関係の深い遺物が多く出土しています。
 本館の常設展示は、この「海」を大きな柱として、「住居」「生活」「交易」「信仰」「漁業」「干拓」「生産」「墓制」の8つのテーマに分けて展示が構成されています。



2016/06/13 JR九州次期予想 鉄道事業初の黒字へ
 JR九州が2017年3月期の決算予想を発表した。毎年赤字だった鉄道事業が、経営安定基金を取り崩したことで、会社発足以来初めて黒字化する見込みとなった。
 16年3月期連結決算は、売上高や経常利益が過去最高を更新。九州新幹線など訪日客の鉄道利用が好調で、「JRおおいたシティ」(大分駅)が開業した効果もあった。
  JR九州は、株式上場を控え、今年3月末に経営安定基金3877億円を取り崩し、鉄道事業の固定資産を減損する会計処理を実施した。これで次期以降の減損処理はないという。
 毎年、新幹線設備の貸付料約102億円を鉄道・運輸機構に支払っていたが、これも基金から一括して前払いした。次期は増収増益を見込み、純損益も黒字化する見通しで、鉄道事業も226億円の営業黒字の見通しとなった。