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File No.160225

LIGO
2月11日、アメリカの研究チームが「重力波の観測に成功した」と発表した。「重力波」はアインシュタインが100年前にその存在を提唱していたもので、今回アメリカの2台の「重力波望遠鏡」が、ほぼ同時に重力波を捉えたという。これを観測出来ればノーベル賞間違いなしと言われ、各国が一番乗りを目指していた。結局この競争を制したのは、アメリカの「LIGO(ライゴ)」ということになった。「LIGO」は、観測能力向上のための改修を終えたばかりだった。それも公式な観測に入る前の試運転2日目だったという。ワシントン州と3000km離れたルイジアナ州に設置された2台の重力波望遠鏡が、わずか0.2秒間の時空の歪みを同時に捉えている。その"ゆらぎ"は、地球と太陽の距離に対して、水素原子一個分ほどのわずかなものだという。発表では人為的なミスはもちろん地面の振動、磁場の変動などあらゆる信号の可能性を徹底的に検証し排除、「本当の重力波だと確信している」と発表した。時間と空間が伸びたり縮んだりするなど、素人には難解ではあるが、ともあれアインシュタインの一般相対性理論が、観測によって裏付けられたことになる。
LIGOチームの「本当の重力波だと確信している」という言葉は、裏を返せば"疑問の余地"があるということにもなる。LIGOはこの後にも、重力波らしい信号を検出しているが、確証がないという。ある情報によれば『星の一生の最終段階では質量が太陽質量の10倍程度になってしまう。今回LIGOが検出したような大質量ブラックホール(太陽の36倍と29倍)は形成されない』という。さらにこんな情報もある。『今回の観測の0.4秒後に、ガンマ線天文衛星「フェルミ」が、同じブラックホールの合体で起きたとみられる「ガンマ線バースト」という現象を捉えていた』。ところが『ブラックホールが合体する際は、強い重力の影響などでガンマ線バーストは起きないと考えられていて、今回の観測は、従来の学説では説明できない』のだという。一つ立証できれば、新しい疑問がいくつも出てくるのが科学の世界である。現在の知見では説明できないにしても、観測技術が進むにつれて立証可能になるかもしれない。しかし今回の“大質量のブラックホール”“ガンマ線バーストの観測”対する疑問は、はっきりさせる必要がある。
ガンマ線バースト

ASTRO-H(ひとみ)JAXA
2月17日「H2Aロケット30号機」でエックス線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」が種子島宇宙センターから打ち上げられた。打ち上げは成功し、高度580kmの地球周回軌道に投入された。温度が高い天体ほど短い放射を放つ。可視光では見ることのできない宇宙を観測する。この衛星の目的は『ブラックホール、超新星残骸、銀河団など、X線やガンマ線で観測される高温・高エネルギーの天体の研究を通じて、宇宙の構造とその進化の解明を行う』となっている。「ひとみ」は「すざく」の後継機だが、「すざく」より10倍から100倍の感度をもち、暗い天体を広い視野で観測するという。80億光年彼方で発生したエックス線をも観測する能力があり、重力波望遠鏡とともに目に見えない遠い過去の宇宙を解明していく。地上からはアルマがミリ波やサブミリ波の観測をしている。電波、赤外線、可視光、紫外線、エックス線、ガンマ線、あらゆる波長の電磁波を、あらゆる望遠鏡が観測する。特にエックス線、ガンマ線の観測では、「ひとみ」が世界の最先端を走る。
日本の重力波望遠鏡「KAGRA」が、3月から試験運転に入る。「LIGO」の重力波初観測は、実に残念である。必死で一番乗りを目指してきた「KAGRA」関係者は落胆していることだろう。今回のLIGOの初観測を受けてKAGRA関係者はこうコメントしている。『地下に設置されて低温ミラーを装着しているため100Hz 以下の帯域で感度が高く、その周波数帯にある重力波源の探査に適していますが、そこはまさに今回LIGOで観測されたブラックホール連星の合体イベントがたくさんあると予想されているところです』。まさに「遅かりし由良之助」である。"事業仕訳"などという猿芝居をしていた民主党は、科学予算を削減したことなど反省してなかろうが、2番じゃだめなんです。とはいえ私としてはまだ、"世界最高精度"の重力波望遠鏡「KAGRA」による、重力波“初”観測の可能性を捨てていない。さらに日本は次の「DECIGO(デサイゴ)計画」を進めている。宇宙で重力波を観測する「宇宙重力波望遠鏡」である。重力波望遠鏡による観測は、宇宙誕生から38万年までの、電磁波では見ることのできない初期宇宙を捉えることだろう。「KAGRA」と「ひとみ」で、初期宇宙、ダークマター、ダークエネルギーを解明し、世界をリードしてほしい。
KAGRA

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