世界遺産・登録はできたが・・・・ 随筆のページへ

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File No.150706

ドイツ・ボンで開かれたユネスコの世界遺産委員会は、「明治日本の産業革命遺産」を、世界文化遺産に登録すると全会一致で決めた。今回の登録については、日韓外相会談で登録に向け協力するということで一致していた。ところが審議直前になって韓国は、植民地時代に朝鮮半島から動員された徴用工が、「強制労働」を強いられたと主張。この韓国側の「強制労働」という表現に日本側が反発し、調整が難航し審議が翌日に先送りされた。委員会の議長が仲裁に入ったが、韓国側はこれを拒否したという。日本側が反発した韓国側の「強制労働」という表現であるが、現在、韓国で起こされている元徴用工についての損害賠償請求訴訟に悪影響を及ぼす恐れがあると懸念したためである。結局、調整の結果、韓国側が発言案を修正し、双方の発言内容について合意した。だが合意といえば聞こえはいいが、ほとんど韓国の要求を丸呑みと言ってもいいような内容である。

韓国が圧倒的に有利に展開したのも、日本側のいろいろな状況が重なったからだと思われる。まず今年で日本が委員国を外れるのに対し、韓国は来年も残る。日本としては、どうしても今年登録にこぎつけたいという思いがある。さらに、日本では今や遅しと、くす玉や横断幕を用意した特設会場に登録を待ち兼ねている多くの人たちがいる。韓国側は、これらを人質にして、軍艦島を、ナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所を引き合いにして、激しいロビー活動をしたという。全会一致で決まらなければ、投票になる訳だが、そうなると各国が日本か、韓国かのどちらかを選らばなければならなくなる。できれば「文化」を審議する場に、政治問題をもちこまないでほしいと思っている委員国は、来年へ先送りという選択肢もあったろう。日本側が「遺産登録の対象は幕末から明治で、徴用の時代とは異なる」と丁寧に説明したのに対して、アウシュビッツの強制収容所と比較して、各国に迫るとは卑怯極まりない話である。

今回登録される遺産群のなかに、炭坑関連遺産がある。長崎の高島炭鉱、端島炭鉱や三池炭鉱の宮原抗、万田抗などである。筑豊地域の炭鉱は含まれていなかったが、その昔、吉永小百合さんが出演した「青春の門」という映画あった。五木寛之氏原作の映画化だった。吉永小百合さんは、この映画を撮る前は、「男はつらいよ」シリーズの「柴又慕情」や「寅次郎恋やつれ」などに出演していた。この映画では、それまでの役柄から脱皮して、女優魂をみせた映画でもあった。映画では筑豊の炭鉱で、死と隣り合わせの過酷な労働に耐え、生きていた人たちが描かれていた。タエ(吉永小百合)の夫、重蔵(仲代達矢)は、炭坑の水没事故で、抗内に取り残された朝鮮人抗夫を救出するため、死を覚悟して、ダイナマイトを持って一人抗内へ入る。「馬鹿も利口も命はひとつ。無駄に捨つることはなか」。重蔵は爆死し、朝鮮人抗夫が助かる。そんな環境は、高島や端島、三池も同じだったろう。日本人も、朝鮮人もない、坑道に入ればみんな同じ運命共同体だったのである。

決着をした表現は「Forced to work」という表現である。これを日本は、「働かされた」と訳し「強制労働を意味しない」と説明した。ところが韓国では、「強制労役」と訳し、日本が強制労働を認めたとしている。もはや韓国としては大勝利なのである。一度、合意を演出し、土壇場でひっくり返すという汚さ。日韓基本条約で「国家賠償は、完全かつ最終的に解決した」として、多額の援助を受け取りながら、徴用工だ、慰安婦だとゆすり、たかりをする。今回の決着でも、おそらく完全かつ最終的な解決とはならない。今は徴用工の裁判には影響しないとしているものの、いざとなったらひっくり返すことなど何とも思っていない。今後あらゆる場面で、日本は強制労働を認めたと言いがかりをつけてくる。よくよく考えてみるに、北朝鮮は「ならずもの国家」と言われている。そもそも北朝鮮と韓国は、たまたま38度線で区切られただけで、同じ風土、同じ歴史を歩いてきた同じ民族である。それを思うと韓国という民族が理解しやすい。


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映画「青春の門」


昭和50年公開/東宝映画
原作:五木寛之
監督:浦山桐郎
出演:吉永小百合、仲代達矢 他