映画「チャーリー・モルデカイ」 映画のページへ

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File No.150224

これはイギリス人作家キリル・ボンフィリオリが1970年代に発表した「チャーリー・モルデカイ」シリーズを映画化したものである。原作は、1973年度の英国作家協会の第1回の最優秀新人賞を受賞したという。ジョニー・デップは、これまで海賊やチョコレート工場長など、多くのキャラクターを演じてきた。その延長線上にある作品かどうかは分からないが、新しいキャラクターの登場である。英国貴族にして、いかにもあやしい"ちょび髭"を蓄えたインチキ美術商。といっても、そこは英国紳士のはしくれ、プライドは高く、ナルシストなのだ。私としては"華麗なる名画の秘密"というサブタイトルと、イギリス情報部"MI5"がらみということもあり観に行った。原作を読んだ印象からも、映画のキャッチコピー"痛快アクション"の期待があった。とはいえジョニー・デップの来日記者会見でのドタキャンや、訳の分からん言い訳など、いやな予感がしない訳ではなかった。

イギリスの貴族チャーリー・モルデカイ(ジョニー・デップ)は、裏社会でインチキ美術商をやっている。危ない仕事には危険も伴うが、最強の用心棒ジョック(ポール・ベタニー)がその都度助けてくれる。貴族とはいえ破産寸前の危機的状況にあり、妻のジョアンナ(グウィネス・パルトロー)は、家の美術品を売るなどしてしのいでいる。そんな時、美術修復家が殺され、ゴヤの名画が盗まれるという事件が発生する。MI5の警部補マートランド(ユアン・マクレガー)から捜査協力を依頼されたチャーリー。マートランドは、裏社会の情報提供と引き換えに、チャーリーのインチキ商売に目をつぶってきた。盗まれた名画「ウェリントン公爵夫人」には重大な秘密が隠されていた。訳ありのゴヤの名画と、国家安全保障にどんな関係があるのか。この名画をめぐって国際テロリスト、ロシアン・マフィアさらにアメリカの大富豪が入り乱れての争奪戦が始まる。果たしてチャーリーは幻の名画を手にすることができるのか?


「ピンク・パンサー」
40周年記念
MI5マートランド警部補役のユアン・マクレガーが、映画のパンフレットにこう書いていた。「本作は1970年代のピンク・パンサー映画を思い出させるよ」。ということでピーター・セラーズ、デヴィッド・ニーブンの「ピンク・パンサー」を改めて観てみた。冒頭のアニメーションも秀逸で、名作である。デヴィッド・ニーヴンは、表向きは英国貴族だが実は怪盗ファントム。奇しくも"チャーリー"と呼ばれている。それを追うパリ警察のクルーゾー警部をピーター・セラーズが演じている。ピーター・セラーズが、ほんの数分の中にいくつものギャグを叩きこむ。それは観客をクスクスと笑わせる心地よいギャグなのだ。実に「粋(いき)な演出」と、役者のもつ「コメディのセンス」が光る映画である。どうやら今回の映画は、脚本家も監督もコメディは得意ではなかったようだ。ましてや演者は、本来備わったコメディのセンスが最も問われる。センスが無ければ、頑張れば頑張るほど空回りするものだ。

本作で光っていたのがチャーリーに仕える執事ジョックを演じたポール・ベタニーだ。執事であると同時に、頼りになる強力な用心棒でもある。疾風のように現れて、どんな窮地からもご主人様を救出する(その割にはチャーリーの、ジョックに対する態度に愛情のかけらも無いのだが)。指を切り落とされそうになっても、あと9本あるから大丈夫。悲惨な目に遭うことなど何するものぞ、ご主人様に誠心誠意尽くすのだ。その健気さに少なからず感動を覚えた人も多かろう。我々視聴者が期待しているのは、単純にスーパーヒーローであり、ハッピーエンドである。それは月光仮面であり、ウルトラマンであり、水戸黄門なのだ。高倉健さんが「死んでもらうぜ」と、悪をバサッと切り倒すと、館内に拍手が湧く。ポール・ベタニーの良さが、最強の用心棒ジョックで花開く。スピンオフで「無敵の執事・ジョック」などという映画を撮ったら受けるかもしれない。


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『チャーリー・モルデカイ』

 〜華麗なる名画の秘密〜

2015年/アメリカ
15年02月公開/107分

監督:デヴィッド・コープ
出演:ジョニー・デップ、グウィネス・パルトロー

モルデカイは幻の名画を無事に見つけられるのか?