手すき和紙・無形文化遺産登録へ 随筆のページへ

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File No.141028

手すき和紙・作業風景
今朝(10/28)のネットニュースに「和紙を無形遺産登録へ ユネスコ補助機関が勧告」と出ていた。日本政府が推薦していた伝統的な手すき和紙の技術が登録される見通しのようである。政府が推薦していたのは国の重要無形文化財でもある「石州半紙」「本美濃紙」「細川紙」の3件である。このうち「石州半紙」は、平成21年にすでに登録されていたようだが、日本の和紙作りの技術を世界に強くアピールするため、改めて3件を推薦したという。これを受けて、ユネスコは勧告で『「こうぞ」の栽培を促進したり手すきの体験活動を行ったりするなど、世代を超えて技術が継承されているとして登録がふさわしい』という評価をした。日本古来の製法を受け継ぐ手すき和紙の技術が、改めて世界に認められたのである。正式には来月パリで開かれる政府間委員会で決定する。

石州和紙は、島根県の石見地方で製造される。その歴史は古く、8世紀初頭、柿本人麻呂が石見国の民に紙すきの技術を伝えたのは始まりとされ、石州和紙の中でも特に「石州半紙」の名は広く知られる。「石州半紙」は、近年、強靭で湿気に強いという紙質から、文化財の修復などにも使われているという。「本美濃紙」は、岐阜県美濃地方で作られる美濃和紙で、解説には「昔ながらの手すきで1枚1枚仕上げる、すきむらのない美しい高級和紙」と書かれている。美濃地方で作られた和紙は、正倉院に残る戸籍の紙にも使われているという。「細川紙」もまた正倉院の文書に記載があると書かれている。「細川紙」は、埼玉県小川町と隣の東秩父村に受け継がれてきた。丈夫で薄い和紙を作る技術は、伝統的な製法と道具によって守られてきている。いづれの和紙も優れた技術が、1300年もの時を経てなお、受け継がれているのである。
石州半紙


本美濃紙
伝統的工芸品と称されるものは、日常生活に供し、自然の恵みを材料として、手作りされる。それが伝承されてきた高度な匠の技によって名品となる。だが最初から完成されていたものではなく、受け継がれるごとに、技術が極められていったと思われる。豊かな自然に育まれてきた日本人の感性の細やかさ、鋭さは、群を抜いている。職人技といわれる技術を考えてみるに、共通しているのが、高い集中力が生み出す神がかった感覚である。それは1000分の1ミリというミクロの世界を感じ取る指先の感覚であり、あるいは気温、湿度といった肌で感じる感覚であり、材料一本ごとに微妙な違いを見分ける感覚である。そうしたものが総合された上に、時代を超えた究極の機能美がつくりだされていくのである。モノづくりに真摯に取り組み、職人技を究めようとする態度は、日本人ならではと言える。

今でこそ人間の寿命は80年だが、その昔は「人生わずか50年」である。そう考えると、手すきの技術が連綿と受け継がれてきた1300年という時間は実に重みがある。20年に一度行われる式年遷宮も、その歴史は1300年である。去年の遷宮は第62回だった。この20年という時間は、寸分違わぬ技術の伝承にとって最適なスパンなのである。手すき和紙の技術が、それくらいで受け継がれてきたとすれば、おそらく60〜70世代にわたって受け継がれてきたことになる。現代においても高い評価を受ける、品質の高さ、技術力の高さを支えているものは何か。おそらく「製品に対する誇り」である。さらに生まれ育った土地の恵みへの感謝もあるだろう。今回の無形文化遺産への登録は、さらにそれを強力に後押ししてくれるものである。
細川紙


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