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File No.140925

9/16〜9/21アクロス福岡(天神)で「アイルランドの石の美術 拓本展」が開催された。パンフレットによると、銀座がアイルランド人によって設計されていたり、初代の「君が代」はアイルランド人によって作曲されたなど、日本との交流の歴史は長い。そして日本で最も有名なアイルランド人は、ラフカディオ・ハーン日本名小泉八雲である。日本の文化を広く世界へ紹介した功績は大きい。今回の拓本展は、東京周辺とアイルランドの首都以外では福岡が初めてだという。アイルランドの石に刻まれた文様を通して、アイルランドの歴史を知り、文化を感じる貴重な機会となった。拓本は造形作家・美術史家の故大野忠男氏が1973年から8年間に亘ってアイルランドで採拓したものである。故・大野氏は展覧会に対してこんな考えを持っていたという。『会場がひとつの作品になっていなければならない。個々の作品も作品として優れていなければならない。それをひとつにまとめられなければ展覧会ではない』。

その意思を継いで会場には、歴史的・美術的に重要と思われる拓本約100点余が展示された。アイルランドは、歴史の大きな変化が数回あり、それに伴い石の美術にも変化があっている。紀元前3500年ころのニューグレンジ古墳に代表される「うずまき」と「三角文様」の時代(写真右上)。紀元前2世紀ころのケルトのラ・テーヌ文様の時代。特徴はつる草的曲線文様(写真右下)である。そしてキリスト教が入り、ケルト的文様が消え、十字文の墓石が現れる。しかしこの後、ゲルマン的文様の組紐やケルト的巴文が復活する。パネルには、ケルト文様の復活は、ゲルマン的組紐の刺激によるものだろう。それはケルトのルネッサンスと呼ばれるべきかもしれないと書いてあった。ケルトとゲルマンとサクソンの出会いが新しい芸術を生み出したと講師は解説された。歴史の大きな流れ中で、ケルト文化はヨーロッパ文化を形成した要素であり、今なお生き続けている。


ストーンヘンジ
つい先日、結果は否決だったが、スコットランドで、独立をかけた住民投票があった。会場のパネルをみると、アイルランドはイギリスとの戦争を経て、第二次世界大戦後独立している。アイルランドとイギリスはそんな関係にある。紀元前3500年頃のニューグレンジ古墳の時代は、巨石の時代である。同じころイギリス南部には、「ストーンヘンジ」という巨石の文化があった。巨石の下からは、恐らく身分の高かったであろう人の人骨が出ている。ニューグレンジ古墳には、冬至の明け方太陽の光が真っ直ぐに入ってくるという。ストーンヘンジの巨石もまた、夏至の日の出と冬至の日の入りの方向が一致している。ただ、会場のパネルには『ニューグレンジの古墳は、単なる構造材料であり、どうやら巨石そのものの信仰ではないように思える』と書いてあった。ストーンヘンジの方に、巨石のアミニズム的信仰があったかどうかは分からないが、当時合計2000トンもの石を運んで立てたということそれ自体、死者に対し大きな意味を持つと思われる。

私はかつて、王塚古墳(福岡県・桂川町)の壁画についてこんなことを書いた。
被葬者を来世に送るにあたって、蕨手(わらびて)文にどんな意味合いを持たせるかである。三種の神器の、勾玉というイメージもある。だがここはもっと深遠に、宇宙を支配する「渦巻き」と考えてはどうだろうか。見方によっては、丁度「渦巻き銀河」の姿である。古代人の鋭い感性で、「渦」という宇宙の原理を感じ取り、表現したのではないだろうか。それは終わることのない永遠の命を被葬者に贈ったということなのかもしれない。
「うずまき文様」は、地球の真裏にあたる日本とアイルランド双方で出現している。写真右上は、ニューグレンジ古墳入口の巨石に描かれたもの。写真右下は、山梨県の桂野遺跡から出土した深鉢土器に描かれていたものである。文様の酷似とともに、その時期が一致しているというのにも驚く。今回の拓本展のパンフレットには、その意味するところをこう書いてあった。
『うずまき文様は無限小への収束であり、無限大への発散であって、これは超現実的な世界である。この無限の世界とは我々の手の届かぬ世界であり、人間を超越した神秘的な世界であるだろう』
「無限小」は「元素」であり、「無限大」は「宇宙」と言える。宇宙は元素を生み出し現在の宇宙を形成した。人類は、その元素の一時期の秩序である。「うずまき文様」に込めた、古代に生きた人たちの思いの深さを感じずにはいられない。アイルランドについて、ほとんど何も知らなかった私に、「石の美術拓本展」は、いろいろな知識を与えてくれた。

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