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File No.130928
福岡市動物園が開園して、今年で60周年を迎えた。動物園では平成18年度から20年をかけてリニューアルを進めている。その計画のうち「アジア熱帯の渓谷エリア」が完成し、9月21日には記念式典があっていた。新しく完成したのは、ヒョウ舎、マレーグマ舎などである。今回のリニューアルにあたってのコンセプトは「動物本来の活動や生活を見せる行動展示」を導入したことだという。中でもヒョウ舎の迫力はすばらしい。ほんの数十センチという至近距離で吠えたりすると、おもわず飛び退くほどである。動物の生態をより近くで観察できるから、子供たちにはより鮮明な記憶が残るだろう。今後のリニューアルにも、引き続きこの「行動展示」が導入されるという。今後整備されていく“アフリカの草原エリア”や“日本の自然エリア”などが楽しみである。ところで、今は観覧者のほとんどがカメラを持っている。みんなよりリアルな生態をカメラに納めようと一生懸命だが、残念ながら光の具合で、ガラスに反射したり、観覧側が写り込んだりと迫力のある画像を撮影するのに苦労している。展示方法に何か工夫が出来ないものか。
以前、野生のヒョウの一生を追跡した番組を観たことがある。それはアフリカの草原に暮らすヒョウの母親だった。ヒョウは母親が子供を育てる。子供が一人前になるまで、外敵から守り、食糧を確保し育てていく。野生のヒョウにとって、子供とともに生きていくのは、毎日が生死をかけた闘いなのである。やっとのことで確保した食糧を、奪われてしまうこともある。帰れば腹をすかした子どもがいる。食糧が確保できなければ、すなわち“死”を意味する。さらに子供は外敵から狙われやすい。安全な岩陰の穴に子供を置いて、狩りに出かけた母ヒョウ。ところが留守を狙って、巨大なヘビが子供を呑みこんでしまった。もう可能性はないと知りながらも、ヘビと死闘を繰り広げ、子供を吐き出させた母ヒョウ。死んだ我が子をくわえてその場を去っていく。もうひとつ、ヒョウはオスとの子どもができると、別のオスとの子供はかみ殺される。ところがこの母ヒョウは、両方のオスにすり寄り、どちらのオスも自分の子供だと思わせたのである。子供の命を守る戦略である。これが本脳に備わっている母性なのだろう。老いて姿を消していく老ヒョウの姿。観終わったとき感動で絶句していた。




百獣の王・ライオンの生態もテレビ番組で観た。ライオンはよりよい縄張りを確保するために、群で暮らしている。オスには立派なたてがみがあり、それはオスとしての強さを表している。たてがみは色が濃く、豊かなほうが健康の証だという。強い子供を産むために、メスライオンはそのたてがみを判断し選ぶのである。しかし、そうしてひとつの群に君臨しても、その期間はほんの数年でしかない。ある時期になると、外から別のオスが、群を乗っ取るために戦いを挑んでくる。食物連鎖の頂点にいても、別の戦いが待っている。その戦いに負ければ、群を去らなければならない。新しく君臨することになったオスは、9か月以内の前のオスの子供は殺してしまう。それはメスライオンが子育て中は、発情しないからである。限られた時間内に、最大限自分の遺伝子を残そうとするのである。そうあることで群に新しい遺伝子がもたらされ、より強い生命力が維持されるという。自然の摂理である。
そのテレビ番組で「ライオンの最大の敵は、他のライオンではなく、人間なのかもしれない」と言っていた。力で勝ち取った、水・食糧の豊かな縄張りも、人間に侵食され群れが衰退していく。人間によって寸断され、外部のオスが来なくなったことで、新しい遺伝子が入らなくなり、生命力も落ちていく。こうして食物連鎖の頂点に立つ人間は、百獣の王・ライオンさえも絶滅の危機へ追いやっている。向かうところ敵なしのホモサピエンスも、敵は他ならぬホモサピエンス自身である。真綿で首を絞めるように、じわじわと蝕んでいく。今、先進国は少子化に悩む一方で、開発途上国は幼児の死亡率が低くなり、爆発的に人口が増えている。つまり自然の摂理を破壊し続けているのである。そんな中にあって、生態系を維持する意味からも、動物園はより大きな役割持つ。希少動物の繁殖などは、ある意味人間への警告とも言える。また、より野生の姿に近い生態を見ることで、基本的な営みが我々人類と何ら変わりないことを知る。それは、我々も地球上に生きる動物の一種だという自覚を促すことになる。
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